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『児童及び未成年学生の犯罪行為後の矯正プログラムについてのモデル事業(文部科学省・国防省・SDA協力事業)』  というのが正式名称で、略称『矯正プログラム』だ。  資料ではいろいろとメリット・デメリットが比較されて検討されたように見えるが、結局のところ、手軽に武器を手に入れやすくなり、手軽に犯罪と接点が持てるようになった時代の子どもの矯正に行き詰まりを感じた偉い人たちが、いろんな手を打ってみようとチャレンジしたプロジェクトと言える。  教育界からの抵抗はあったし、SDAだって受け入れるのに抵抗はあったはずだ。  でも3年だけと期限があり、最初の1年が問題なく終わったことで、どちらも安堵していた。敎育界は思ったよりもSDAが無茶をしないと知り、SDAは敎育界がそれほど目をギラギラさせて睨んでこないとわかったからだ。  受け入れるのは12歳から18歳までの危惧児童及び未成年だ。  危惧とは、テロへの参加危惧だ。  蛍汰は渡された資料に目を通しながら、規定のプログラム計画書を見た。  これで矯正ができると、上は本気で考えているんだろうか。 「良かったです、矢島二尉が来てくださって。以前は基礎教練学校での教官経験もあるんですよね。適任じゃないですか。どうして今まで候補に上がらなかったんでしょうね」  蛍汰のサポートとして付いた今田が言った。 「私は別のプロジェクトで警察への出向なんかをしてたので」 「そうですか。でもそれなら、なおさら適任ですよね。あ、資料には目を通されました? 不明点がありましたら何でも聞いて下さい」  今田は蛍汰とほぼ同じ年代の20代半ばから後半に見えた。蛍汰より背が高く、蛍汰よりも整った顔立ちをしていた。広報のモデルにスカウトしたいぐらいだ。 「3ヶ月のプログラムで、最後に矯正結果の評価表を出すようですが、これは評価によって生徒の処遇が変わるんですか?」 「変わりません。そんな責任はSDAは持てませんからね」 「ここに来る前には生徒に心理検査をするそうですが、ここを出た後に変化を評価する仕組みはありますか?」 「知りません。それはSDAが関知することでないかと」  今田は聞けば何でも答えてくれる。しかも反応速度はとても早く、蛍汰は感心した。 「わかりました。時間ですね、もう来てますか?」  蛍汰が言うと、今田は時計を見て立ち上がった。 「呼んでよければ、入ってもらいます」 「呼んでください」  蛍汰はタブレットの資料を閉じた。今田が立ち上がり、会議室のドアを開いて外に声をかけた。  蛍汰は開いたドアから入ってきた14歳の少年を見た。
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