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杉岡崇はあちこちに火をつけて回って火事を起こして逮捕された。最初は黙秘していたが、審判中にポツポツと話し始めた内容が資料に書いてあった。
彼は火を聖なるものとする宗教心から火を付けたのだと言っていた。汚れたものは炎をもって清められる。だから今の世界は全部燃えて良いものばかりだと。
それでSDAの矯正プログラムに送り込まれたというわけだ。
崇は痩せ気味の比較的小柄な少年だった。スポーツはあまり得意ではないらしく、そのため、SDAに入れられると決まったときはとても嫌がっていたという。
中学の成績は学年でトップを争うほど良かったが、放火を行い始めた頃から成績が落ち始め、今では中間ぐらいの成績のようだった。
蛍汰は入ってきた少年が目の前の椅子に座ったのを見た。あらかじめ言われていたのか、背筋はピンとして姿勢はいい。
矯正教育は面談から始まる。
「杉岡くん、私は矢島です。こちらは今田先生。君は宗教心から放火を行ったということですが、ちょっとそのことについて説明してもらってもいいですか?」
崇は面接みたいだなと思いながら、目の前の長机の向こうに座っている2人を見た。
どちらも思っているより若い。もっとクソジジイが怒鳴りつけてくると思っていたから、少し気が抜ける。パワハラはないらしい。
口を開いた方がメインで、部屋に案内してくれた方がサブだってことはわかっていた。だからメインの方をまっすぐ睨むように見つめる。
「炎で浄化するという思想は昔から日本にあります。僕は家が火事になったときに、たくさんの思い出がなくなって燃えましたが、同時に気持ちが浄化されるのも感じました。それから、燃やして浄化したいという気持ちが止められなくなりました」
サブの方は唇をちょっと曲げたが、メインはまっすぐ崇を見つめたままだった。
「それが間違っているということは、審判中に学びましたか?」
「学びました」
「腑に落ちました?」
「理屈では理解しました」
「それは腑に落ちてないという意味ですね」
にこりともせず、メインは言う。
「我慢しなくちゃいけないのはわかりました」
「我慢、はしなくていいです。ここで3ヶ月、君は火を扱える訓練を行いましょう。カリキュラム表は事前に見ましたか?」
「……はい」
崇は何度も見返した資料を思い出した。午前が座学、午後が実技訓練。しかし内容はあまり詳しいことが書いていなかった。きっと走らされるとか腹筋背筋とかだろうとげんなりしていた。
「杉岡くんは、学校での成績は良かったと聞いています。勉強は好きですか?」
SDAってところは、一体どういうところなんだろう。
崇は当惑したが、それを表に出すのは恥ずかしかったのでポーカーフェイスを貫いた。
「好きです」
「良かった。午前中、こちらの今田先生が勉強を見てくれます。今田先生はせっかくいい大学に入ったのに、卒業後にSDAに入った変わり者です。中学生の勉強なら楽勝です。私は別件の会議が終わったら様子を見に来ます。杉岡くんの中学校で使っている教科書を持ってきてますよね。どの教科でもいいので好きなものを勉強してください」
そう言ってメインが立ち上がり、崇は彼がさっさと出て行くのを見た。
残されたサブが慌てて追いかけて呼び止め、何やら2人は話をしていた。
たぶんメインがサブに丸投げしたんだろう。すぐにサブが諦めて戻ってきた。
「しょうがないな。学習室に行こうか。教科書は部屋に置いてる?」
サブが言って、崇は「はい」と答えた。
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