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矯正プログラムでは、その性質上、気性の荒い生徒も多かったが、ハンス・バウティスタは群を抜いて荒っぽかった。だから集団生活というのがまず不可能で、他の生徒の安全のためにも、彼自身の安全のためにも、特別室が用意されて、集団活動が可能と認められるまでは、蛍汰と今田がそこに通う形になった。
栗林は思いつきで言ったのかもしれないが、ハンスは暴れて抵抗するとき、手足が塞がれると最後は噛みついてきた。
初日から、何度か蛍汰が今田を突き飛ばしてでも、彼を守らなければならない瞬間があって、その日の昼の時点で、今田に「今からでも受け入れ、断れませんか?」と打診されたぐらいだった。
ただ、暴力は油断さえしなければ何とかなった。それよりも、会話ができないことで意思疎通が難しいのが悩ましかった。言葉の問題はあるようだったが、わかるように易しい言葉を使っても、ハンスは会話に応じなかった。
これで審判がきちんと下されたのか、蛍汰は記録を疑った。適当に都合よく解釈された可能性だってあるんじゃないだろうか。
「昼から、今田さんはちょっと休んでいてください。私が彼と話してみます」
昼休みに蛍汰が今田に言うと、今田は目を見開いた。
「矢島二尉、気でも狂いましたか? あの獰猛な奴と話をするんですか? 1対1で? 日本語もわかってるかどうか、わからないのに?」
「午前中で、だいたいの日本語レベルがわかったので、わかるように話します」
「いやいやいやいや」
今田は大きく否定した。手にはアイスパックを持っていて、午前中に打撲した額や肩を冷やしている。
「通じてませんって。そもそも返事をする気がないじゃないですか」
「言葉での返事は別に必要ないので」
「え? 何言ってるんですか? 超能力ですか?」
「今田さんこそ、何を言ってるんですか。疲れたでしょう。休憩取ってください」
「嫌ですよ。矢島二尉の超能力見たいですから」
「ご期待には沿えませんけど」
「とにかく、私は矢島二尉と一緒にいます。なんで外そうとするんですか。そんな腰抜けだと思いましたか?」
「え、だって、受け入れ断れとか言うから」
「矢島二尉が大丈夫だって言うなら、付き合いますよ。大丈夫なんでしょう?」
今田はちょっと興奮気味にキレていた。
「今田さん、変な期待されてるみたいなので、ものすごく失望すると思いますが、それでも良かったら勝手についてきてください」
「何すか、そのフリ」
今田はまたプンスカと怒った。
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