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今田はハンスと矢島の関係がよくわからないまま、サブでついていた。
毎日見ていると、2人の間にある空気が、じわじわと緩んでいくのが見えた。相変わらず矢島が話しかけているだけでハンスはほぼ返事をしないし、特に反応も大きくは見せないが、それでも少なくとも反抗は減った。
もちろん、人間はそう変わらないから、ハンスが激しく暴れるときもあった。そんなときは、矢島と今田を含めた教官たちが彼を全力で止めた。そのため、今のところ、教官たち以外に怪我人は出てなかった。
今田も矢島も被害には遭った。他の教官もそうだが、今田たちは担当でもあるので回数が多い。結果的に制圧できるとしても、途中で振り回した腕や拳に殴られることはしょっちゅうだった。
でも、バキバキだった緊張感が、今はピキピキぐらいになっている。
ハンスが薬に慣れてきたこともあるのかもしれなかった。最初は暴れすぎてドクターストップのように医療行為が成されていたのが、本人が苛立ちをコントロールできる可能性を感じたのか、調剤されたものを自主的に飲むようになったのだ。投薬確認もされていて、今田も立ち会ったことがあるが、義務的な態度ではあるものの、それほど嫌がる素振りはなかった。
矢島はそれでも毎日、バランスを図り続けているようだった。突っ込みすぎず、でもじわじわとハンスに近づきたい。そういう感じが見えた。
栗林にはハンスを挑発したことを叱責されていたが、あの挑発で何かが少しだけ変わったのも事実だった。とはいえ、油断はしてはいけないと矢島は言っていた。まだ関係ができたわけではなく、お互いに様子を見ている段階なのでと。
たまに矢島はハンスにタガログ語で話しかけて激昂されたり、フィリピンの歴史を学習に入れて説明してハンスにそっぽを向かれたりしていた。
劇的に何かが変わったわけではなかったが、もう少し時間があれば何とかなるのではないかという希望だけは遠くに小さく見える段階だった。
が、3ヶ月という期間は短く、あっという間に月日は流れていった。
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