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 別にどの教科も好きでも嫌いでもなかったので、積んでいた一番上にあった国語から勉強を始めた。  確かにサブの今田は何を聞いても迷わず教えてくれた。そして教え方も思ったより上手かった。塾の講師にもなれそうだと言ったら、今田は嬉しそうに笑っていた。  思っていたよりSDAは緩い空気だった。  というのも、たぶん崇の入れられた場所が本来のSDAではなく、そこから広い道を一本隔てた別敷地の基礎教練学校の隣にできた臨時施設だからだろう。  隣の基礎教練学校は将来SDAに入る予備学生が在籍していて、高校と同じ扱いになっている。そこから体育とか音楽とか笑い声とかの普通の学校生活っぽい物音が聞こえていた。  少年院とかの方が規則は厳しい気がする。同じように点呼はあるが、矯正プログラムにいるのが多くて5人までだし、居住スペースにいる間以外は個別プログラムがほとんどなので、集団行動も思ったより少ない。  心配した両親が調べてくれたところによると、まだこのプロジェクトは始まったばかりなので、いろんなことが流動的だという話だった。属人的とも言える。  昼前ぐらいになって、メインが戻ってきた。そのときは数学を広げていた。 「うわぁ、難しいのやってるな。今田先生、僕もこれやってみていいですか」  メインが言って、紙を一枚出した。 「矢島先生、因数分解とか覚えてます?」  サブがからかうように言って、メインは教科書の前のページを見ながら、眉間にシワを寄せていた。 「杉岡くんはスポンジみたいに吸収してくれるので、教えるのが楽しくて」 「じゃぁ、杉岡くんに教えてもらおう。これはどうやるの?」  そう聞かれて、崇は咳払いした。さっき今田に教えてもらったから、それに沿って説明する。  メインはうなずきながら式を書いていき、最後に答えが求められて、満足そうに崇を見た。 「勉強してる間、何か燃やしたくなった?」  そう聞かれて、崇は目を瞬いた。 「いいえ」  火のことは、言われて思い出した。 「ほらね、我慢する必要なんてなかっただろ」  メインが言って、崇はちょっとムッとした。何だろう。この人を燃やしたくなった。  教練学校のチャイムが鳴る。 「昼は1回部屋に戻ってから食堂だったかな。SDAらしく時間厳守だから」  メインがサブに目配せして、サブがいきなりシュタッと音がするぐらい背筋を伸ばして言った。 「起立」  あまりにも突然だったので、崇は思わず起立した。 「礼」  今田が礼をして、崇も同じように礼をした。メインが礼を返す。 「生活指導に怒られないように頑張って」  緩く笑ってメインが出ていき、サブがまたその背中に軽く礼をしていた。
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