12/14
前へ
/56ページ
次へ
 最終面談の日、ハンスはやっと解放されるという気持ちでいっぱいだった。どうせここにいる奴らもそうだろう。早く手を離したくてたまらないに違いない。  結局、ハンスは何も矯正されなかった。確かに矢島が言うように、ここで何をしたのかと周りの奴らに聞かれたら、正直に言えば何もなかったと言えるが、それでも何らかのハクはつく。それだけで充分なのだということが、素人にはわからなかったらしい。  最初の面談のときと同じく、矢島と今田はビシッと決めた制服でやってきた。このときだけは彼らが役人なんだなと思う。普段は作業服とかジャージみたいな服だから、どこの奴かわからない。  ハンスにはよくわからないが、矢島の方が徽章みたいなのを多くつけているのは見てわかる。 「バウティスタさん」  矢島にそう言われて、ハンスは違和感を感じた。 「卒業前に報告があります」  矢島はほとんど無表情にハンスを見た。 「あなたのお兄さん、レスターのことですが、彼は先日、薬物取引の容疑で逮捕されました」  ハンスはそう言われて、ちらりと矢島を見た。揺さぶりをかけている。それが事実であれ、嘘であれ、ハンスには何の影響もない。きっとレスターも何年かすれば釈放される。日本では刑務所で殺される心配もない。 「まだ刑務所に何年入るのかも決まっていませんが、あなたに会いたがっていました。拘置所に面会に行き、話をして、あなたのこれからの自分の生き方を考えてください」  矢島はそう言ってから、ハンスが答えないのを見て、自分でうなずいた。 「質問をしてもいいですか?」  矢島はハンスの答えをもう待たなかった。 「君は『誇り』を持ってるでしょうか」  ハンスは鼻でフッと笑った。そんなことを3ヶ月もずっと聞きたかったのか。 「もしかしたら君は短い一生を送るのかもしれません。それがどうという話ではないのですが、バウティスタさんが自分に誇りを持てるようになったなら、私はこの3ヶ月にも意味があったと……いや、違うな」  矢島が息を大きく吸って吐いた。それから机にサムワールドのカードの箱を置いた。その上に自分の名刺のようなカードを置く。 「卒業後のホットラインです。何かあったら連絡をください。そして、必ず私より長生きしてください。私からは以上です」  矢島が言い、今田がちらっと彼を見てからハンスを見た。  そして事務手続きについての説明を始める。  ハンスはそれをだらりと聞いた。矢島、それは、やっぱり俺に殺されたいって意味だな。  それから数時間後、ハンスは自由になった。サムワールドのカードを貰えるとは思っていなかったので、それだけは嬉しかった。  渡された矢島の名刺は捨てようと思ったが、ポケットに突っ込んだ。いつか襲撃した日に突き返してやろうと思って。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加