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レスターは元気そうだった。
ハンスはSDAに矯正に入れられたことを言うと、レスターはそこで何があったか聞いた。
「別に何もねぇよ。ウザい奴がいて、ウザいこと言ってるだけ」
レスターは面白がるでもなく、ハンスを見返した。
「ヤジマって奴だな、俺も会った」
「ムカつくだろ。出たら一緒にぶっ殺しに行こうぜ」
「ヴァル、ここを出たら国に帰れ。入管には見逃されたんだろ。それって、おまえが俺を売ったって誤解されるようなもんだ。取引したって周りが言ってた。狙われるぞ」
レスターはハンスを心配して言った。
「レスター、俺は何も喋ってない。本当だ」
「俺は信じてる。でも周りはそう思ってるってことだよ」
「俺が全員ぶっ殺してやるよ。SDAのウザい奴も震え上がらせてやろうと思ってんだよ。心配すんな。俺が片っ端から……」
「ヴァル、ダメだ。逃げろ。いいか、絶対すぐに消えろ」
レスターが真剣に言ったので、ハンスは心底驚き、そしてがっかりした。強くて憧れだったレスターは腰抜けになった。
刑務所を出て、ハンスは喪失感に倒れそうになった。だから酒を飲み、ドラッグでラリって、矢島をぶっ殺してやろうとナイフを買った。
フラフラと歩いていると、騒いでいた酔っぱらいとぶつかった。
「おらぁ、てめぇ、どこ見て……」
ハンスはそう言って、膝をついた。もう一度、相手がぶつかる。それは腹にズシンと重い衝撃で、一瞬で気が遠くなった。意味がわからなかった。が、わかっていることもあった。
家族もレスターもいたマニラの光景が浮かんで消えた。
自分を抱いて「あなたは私の誇りよ」とキスしてくれたママの声がした。
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