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いつものように浜松は、矢島蛍汰が教練学校側から本部の方へと戻るのを待っていた。
ここでの出待ちも何度目になるだろう。浜松はいつもと少し違う黒いスーツ姿の蛍汰を見て、ちょっと見惚れるが、彼が迷わず近づいてくるのを見て、我に返った。
「お疲れ様です」
浜松が軽く礼をすると、蛍汰は人目につかない建物の陰に入って立ち止まった。
浜松もそちらに身を寄せる。
「わかりましたか?」
蛍汰が聞いて、浜松はうなずいた。
「ハンス・バウティスタとレスター・カンボロに血縁関係はありませんでした。フィリピン時代からの友人というか幼馴染のようなもので、家族ぐるみの付き合いがあったようです。レスターが技能実習生として日本へ。最初は真面目に働いていたようですが、2ヶ月ほどで行方不明になっています。ハンスが彼を頼って渡日したようですが、経緯ははっきりしていません」
「面会はありましたか?」
「一度だけ」
「そうですか」
蛍汰は息をついた。
「他にヴァルに家族は」
「妹が一緒に来ていたようですが、彼女も行方不明です」
「浜松さん、お手数ですが……」
「探します」
「よろしくお願いします」
蛍汰が頭を下げたので、浜松は辺りをちらりと見てから「やめてください」と蛍汰の肩を上げた。
「僕は何もできませんでした」
俯いたまま蛍汰は消え入りそうな声で言った。
「矢島二尉、甘えるのは勤務時間後にお願いします。今は困ります。だって誰かに見られるかもだし、思い切ってハグもできませんし……」
「ハグはいらないです」
蛍汰は浜松に支えられたような状態のまま言った。
「そう言わず、終業後に存分に甘えてください」
浜松が強めに肩を戻すと、蛍汰は深く息をついて姿勢を正した。
「すみません、浜松さん。ちょっと元気が出ました。では行ってきます」
「あぁ…、はい、いってらっしゃいませ」
浜松は思わず姿勢を正した。
蛍汰は振り返ることなく歩いて行く。
入口のロータリーに今田が車を回してきて、蛍汰を拾って去っていくのが見えた。
浜松はその車に小さく礼をした。
刺殺されたハンス・バウティスタの葬儀で、彼は泣きも笑いもしないだろう。部下の今田の前では後悔の欠片だって見せないだろう。元同僚の浜松の前でもアレが限界だ。
でも、年上の友人の前なら別だ。後悔だらけであれこれ悩み、ちょっと相手に寄り添いすぎて感情を揺らしてしまう人になる。自分で3ヶ月で何ができるんですかと上に噛みついていながら、3ヶ月で何とかしようと必死になってしまう人だ。
これまでだって多くの相手を変えられず、堕ちていく姿を見守るしかなかったくせに、今でも諦めきれずに、藁を掴んで足掻く。傍目には全部飲み込んでいそうなのに、全く飲み込めてない、人生の初心者だ。
今夜は広川にも声をかけて、弔いの酒席でも用意してやろう。
浜松はそう思いながら自分の仕事に戻った。
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