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 今田は納得がいかなかったので、それからも矢島に何度も相談した。ほとんど休み時間ごとにヒントを下さいと言い続けたら、矢島は「今田さんが浜松さんに見えてきました」と言った。あそこまで執拗ではない。  ただ、ある日、矢島はゴミ捨てを将孝に手伝ってもらった後、ゴミを執務室に持って帰ってきた。 「今田さん、大発見がありました」  と、矢島はゴミを今田の机の横、つまり自分の机の前に置いた。そして、ゴミ袋からプラスチックの紐を取り出した。あちこちに結び目ができている。 「市橋くんは、基本的なロープワークは完全習得しています。あと、ものを解体する腕も素晴らしいものがありました。見てください、室長が不用意に捨てようとした外付けハードディスクは完璧に破壊されて、必要なら溶解処理までできる知識を持っていました」  興奮気味に矢島が言い、今田は眉を寄せた。 「で、だから何なんです?」 「お父さんから教わったそうです。そして彼はお父さんのことを大変恐れています」 「はぁ……で、どういうことでしょう?」 「僕なりの解釈ではありますが、どうして市橋くんが猫を被っているのかというと、鋭い爪を隠すためです。彼はおそらく、高い能力を持っていて、それを自分では忌み嫌っている。それはおそらく、父親に教わったことです。彼の父親の資料は読まれましたか?」 「はい。周りからは評判の良い人で、まさか息子をあんな目に遭わせるとはって感じでしたね。息子の方は何を考えてるかわからない感じで、だから息子が悪いんじゃないかと言われてたりしたようですが」  今田は渡された紐を見た。結び目は確かに複雑でいろいろな種類があった。 「それでもスパナで殴るのは異常だと思いますけどね」  今田が言うと、矢島もうなずいた。 「私もそう思います」 「つまり……お父さんも猫かぶってる感じですかね」 「私もそう思います」 「ロープワークも、機械の解体もできる。本当はもっといろいろできるってことですかね」 「はい」 「でも見せてくれない。父親を恐れてるから? いや、違いますよね。なんかひっかかる」 「ですよね。では猫を引っ剥がしましょう」 「猫を」  今田は目を丸くした。が、すぐにうなずく。 「そうですね。素の市橋くんを見たいです」 「そのためには、彼に素の自分でいても安全だと知ってもらわなければいけません。彼の実力がわからないので、こっちの受け止めは大変ですけど、やってみましょう」  矢島が言い、今田は目を輝かせた。
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