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 市橋将孝は今田の授業を集中して受け、しかも習熟テストはいつも良かった。どうしてこんなにサクサクと物事を理解していくのかわからないぐらいスムーズだった。  今田のこれまで会ってきたパターンで言うと、こういう頭の回転の早い子で力も強く、他のこともまんべんなくできてしまうスーパーな子は、ちょっと嫌味な面があったりするもんだが、彼は素直で優しい生徒だった。暴れるときでさえ、暴れても良い状況を見て暴れているようにさえ見える。  それでも当初の感情のない目はなくなり、今は比較的穏やかに喜怒哀楽を表すようにはなっていた。 「今日は矢島先生は休みですか」  将孝が言って、今田はうなずいた。ちょっとした嫉妬も感じながら。 「ちょっとね。何、何か用事があった?」 「いえ。所用で来られないときは、いつも何か言ってからなので、今日はどうしたのかなと思っただけです」 「そか。何かあったら伝言できるから」  今田が言うと、将孝は「はい」と言ってプリント学習を続けた。  今田はそれを見守りながら、やっぱり矢島の方が頼りになるよな、と考えていた。どこから出てくるものなのかわからないが、矢島は何となくどっしり構えている感がある。あんなにドタバタしているにも関わらず、だ。  メンタルかな。強そうだもんな。しょっちゅう怒られてるけど、その後、すっかり忘れてそうだもんな。そういうところかな。 「あの、今田先生」  将孝が言って、今田は我に返った。 「はい。何?」 「矢島先生に、聞きたいことがあるんですが、聞いてもいいかどうか、今田先生に教えてもらいたくて」 「うん? どんなこと?」  今田が言うと、将孝は手を止めて今田を見た。 「矢島先生にテロリストの話を聞いてみたいんです」 「あー……そっかぁ」  今田は天井を仰いだ。そのせいで将孝は不安そうにした。 「いや、それは俺も聞きたいな。出前授業とかでは喋ってるらしいんだけど、隊ではあんまりやってくれないんだよな。隊に来るのは、もう若くないからって」 「そうなんですね」 「そう。このプロジェクトでもやらないの、なんでだろうって感じだもんな」 「はい」 「わかった。頼んでみよう」  そう言うと、将孝は嬉しそうにした。
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