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京都と幕末
綾小路通と坊城通が交わる一帯。奥ゆかしい和菓子屋の前を通り過ぎたら目的地だった。
「ほら、ここが前川邸。あっちが八木邸」
「ほおー。ここが。あの」
新選組の大ファンだ、という友人が京都に遊びにやってきた。友人といってもSNSで繋がった今日初めて会った女性。三十路の独身。趣味は読書や映画鑑賞……などと偽りながら、所謂推し活というものに有り金を使い込むオタク仲間だ。オタクの本拠地東京からの旅行ということもあって、土産物は共通の推しのグッズだったりした。
「ここに新選組が。へぇ。なんていうか意外と狭いんだね?」
「言うと思ったわ。これでも当時の豪邸や。京都は建物密集してるからねぇ。基本的に狭いんよ」
「でも私今土方歳三と同じ空気吸ってる? 新選組と同じ景色見てる?」
「まあ大気汚染は進んでるやろうけど」
「ははっ、そういうボケかつっこみかわからないところネットのまんまだね」
「そう? なんか照れる」
へへへ、と互いに笑ってもじもじする。いい大人がよそよそしくも初々しい友情を育もうとしているのだ。
「東京で生まれて京都で活躍、北海道が終焉の地かぁ。浪漫だわ」
「待って待って。新選組の発祥は京都やろ。ここで『壬生浪士組』になったんやで?」
「ん? 発祥は多摩の道場でしょ。東京だよ」
「いやいや、そもそも将軍のお膝元での治安維持が目的やったわけで」
「出た〜。京都の人の京都中心説てまじなんだね」
「え、何やそれ。それを言うたら東京の人かてすぐ自分らが中心みたいに言うやん。新選組なら池田屋と鳥羽伏見ちゃうん」
「……」
「……」
互いの笑顔が強張っている。
「……あとは西本願寺と池田屋跡地行っておこうかな」
「うん。バス使えばすぐやし、マップでわかるやろ」
「そっか。案内ありがとうね。会えて嬉しかった」
「私も。またネットでね」
悲しい別れだ。SNSは後日ブロックした。
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