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Thinking time.
結局、今日も人間を天国へ連れて行くことは出来なかった。だがまずは人間を理解しろ、と言われた衝撃はなかなか大きい。理解すれば人間を連れて行けるようになるのか。そう言えば以前、健全な人間は誰も誘いに靡かない、という意見を口にした者がいた。ふむ、とビルの屋上、その縁に腰を下ろし眼前を見下ろす。私は人間を天国に連れて行けるのか。そもそも他の天使達はどうしているのか。神と人間以外の者と会ったことのない私にはわからない。はて、随分無理難題を押し付けられているのではないか。神はどうして私を他の天使に会わせない? 暫定ではあるが、何故私に理解不能な人間をわかるようになれ、と命じた? ふっ、と自嘲気味な笑みが零れる。そうか、こういうことか。天使が人間を、人間が天使を理解出来ないのと同様に、神も天使を、天使も神を、その思考を完全に理解は出来ないのだ。あぁ、まったく。世界は随分面倒だ。何を考えているのかわからない、とぼやきながらも明日をまた生きていくしかない。もしかしたら神もあいつらは何をやっているんだ、と天使や人間を眺めながらぼやいているのかも知れない。
何もかもわからない只中で、だけど一つだけ確信めいた思いがあった。
神と人間に板挟みとなっている我々天使が一番気苦労を強いられているのではないか、と。
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