梅の便り

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 それぞれの思考に沈む瑞垣と塩塚の元に、ようやっと支局長の話を切り上げたらしい野々村が戻ってきた。  すっかり冷え切った茶を横目に(仕方ない)空っぽの皿を見て開口一番、 「あれ、芝麻球、残ってないんですか?」  …… 「瑞垣さん、最後の一個は残して置いてくださいよ!」 「遅えよ。てか、大半はお前が食うたろ」  子どもの喧嘩ですか、と野々村に呆れられながら、互いに責任を擦り付けあった挙げ句、塩塚は立ち上がると倶楽部にたむろう小僧に声を掛けた。 「貞吉く~ん、お遣いしてくれるかい?」  きっと駄賃をせびられるだろうが、それこそ自業自得である。瑞垣はようよう煙草に火を点けて、いつものように長椅子に転がった。 「それで、梅見の話はどうなりました?」  野々村に問われて、瑞垣は(ようや)く当初の目的を思い出す。鳥獣戯画の件で訪なった処だと野々村に行き先を告げた。 「なるほど。しかし華族のお屋敷での観梅会となれば、相応の宴になるのでは?」 「ええええ……いや、一首詠まなならんとかいうことはないと思うがな……」  考え込む瑞垣に、小僧に駄賃を渡してきた塩塚が驚きの事実を告げる。 「あ、小張様、下戸なんですよ。ですから宴というよりは、茶会だと思いますね」 「下戸!? そうなんか? ああ、そうか、少将様は甘い物が好物やんな」  瑞垣が小張邸で金平糖やら干し柿やらを振る舞われたことを思い出すと、ええ、と塩塚は(うべな)う。 「以前、僕が仏蘭西の記者から聞いた、新しい洋菓子の作り方を日向さんにお教えしたのが縁でして」 「まさかの洋菓子の縁……」  唖然とする瑞垣の隣で、野々村は違う方面に矛先を向けている。 「その仏蘭西菓子というのはどういう?」 「小麦粉ではなくてアーモンドの粉を使うんですよ、そこに砂糖と、」  話し込む後輩記者達を見ながら、瑞垣は大きく息を吐く。  記者倶楽部には場違いな洋菓子の作り方も、陰惨な連続殺人事件や不可解な落雷事件よりは余程良かろう。  主のために菓子を作る黒衣の家令を想像して、瑞垣はすこし笑った。  煙草の白い煙はしばらくゆらゆらと漂ってから、消えた。  

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