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教会の前に男と幼い少女がいた。
男は見るからに衰弱してもう動けそうにもなかったが、少女は多少元気で、フードの下から青い瞳をのぞかせている。薄汚れていながらも白肌にバラ色の差す絵画の天使ような幼い少女だった。親子だろうか、男も落ちくぼんでいながらも目元は少女と近いものがあった。
しばらく時間が経つと、男は動かなくなった。少女は涙の一滴も見せずに男を見下ろしていた。どう見たって二度と起き上がりそうにはないのに、ただ見下ろして、そして去った。
別の教会の前に、あの少女がたどり着いた。今度はそんなに身なりの悪くない女を連れていて、少女も服こそ質素だったが白金のような髪をふわふわと揺らしていた。女は母親なのだろうか、少女とよく似た髪質をしている。教会の前に着くとすぐに女は少女に何か言った。少女は何も言わずあの青い瞳でじっと女を見上げていて、焦った女は少女の腕を強く引いて教会に押し込もうとした。しばらくの押し問答ののち女が教会の前に倒れこむと、少女はまたただ静かに見下ろして去った。
その後少女はどこか少女に似ている大人と一緒にどこかの教会に足を運んだ。
少しずつ裕福ではないながら小奇麗になる少女は訪れるたびに大人を置き去りにした。普段は教会に訪れないから、訪れるときは大人が誰かしらついていたのである。
ある時、少女は一人で教会に訪れた。もう連れてくる大人はなくなったようで、初めて扉を開けて長椅子に腰かけた。そして天に響き渡るような清廉な声で歌い始めた。
数時間の歌声ののち、長椅子に残されたのは一枚の羽根であった。
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