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「ねえ、イチマルキウってどこにあるの?」
さあと首をすくめた料理番のマフに代わって、メイドのメアリが答えた。
「氷の森を抜けた先ですよ、坊っちゃん」
ふうんと僕は頷く。森の向こう、王子様の所領地か。あの恐ろしい森を抜けるなんて到底無理だ。迂回して行くとして、往復何日かかるだろう。
「スケスケショウブシタギってそこにしか生えてないの?」
僕の質問に、マフが吹いた。
「坊っちゃん、一体なんの話で?」
僕が事情を説明する。マフとメアリは顔を見合わせた。
「気になさいますな、坊っちゃん。流石のザクロ様も、本気のご命令ではないでしょうよ」
「そうですよ。また暇つぶしの意地悪に決まってます!」
そう言いながら、二人は僕にスケスケショウブシタギなるものの意味を教えてくれた。それは菖蒲でも低木でも薬草でもなかった。
とってこいと言われた気がしたが、それは決して人様からとってはならず、買うべきものだった。
僕は驚いた。何が悲しくて義母、もといおっさ……mのためにすけすけパンツを買いに行かねばならないの。
第一、僕みたいな煤だらけの格好で、シブヤになんか出かけて行けるはずない。イチマルキウとは貴族のお嬢様御用達の、一流衣料品店のことらしい。僕がのこのこ出かけて行って、スケスケシタギを下さいなんて言ったら、すぐにつまみ出されてしまうだろう。
僕には出来るはずのない、無茶苦茶なお使いだった。どうやらマフの言う通り、本気の命令ではなかったんだろう。と、僕は思った。
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