天使の贈り物

4/10
前へ
/10ページ
次へ
 ベンチが白い。と思ったのは、錯覚で、その人の衣装が白いのだった。衣装、と思ったのは、その人の出立ちが普段着るものではなかったからだ。その人は白いタキシードを着ていた。 「……ん?」  その人は顔を上げて、私を見た。 「なんだよ」 「……」 「……何」 「……誰で、すか?」  思わずそう尋ねていた。なぜなら、なんだか変だったからである。  白いタキシードは、うらぶれた森エリアにはふさわしくない純潔ぶりであった。胸元にも白い花のコサージュがあしらわれている。百合かも知れない。ダリアかも。その人は少し化粧をして、肌が生まれたばかりのように見えた。髪はセンターで分け目を作り、スプレーかクリームか、何をしたのかは分からないけどツヤツヤして、頭の上のところでくるんと光の輪を作っていた。  この人は、人だろうか。本当にこの世のものなのだろうか。  でもその人は、 「ミカミテル」  と名乗った。  なんだ人間か、と私は思った。  名乗られてしまったので、こちらも名乗る。 「私は、木野花」  と言うと、 「だから何」  と、突き放されてしまったのだった。 「そこどいてください」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加