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ベンチが白い。と思ったのは、錯覚で、その人の衣装が白いのだった。衣装、と思ったのは、その人の出立ちが普段着るものではなかったからだ。その人は白いタキシードを着ていた。
「……ん?」
その人は顔を上げて、私を見た。
「なんだよ」
「……」
「……何」
「……誰で、すか?」
思わずそう尋ねていた。なぜなら、なんだか変だったからである。
白いタキシードは、うらぶれた森エリアにはふさわしくない純潔ぶりであった。胸元にも白い花のコサージュがあしらわれている。百合かも知れない。ダリアかも。その人は少し化粧をして、肌が生まれたばかりのように見えた。髪はセンターで分け目を作り、スプレーかクリームか、何をしたのかは分からないけどツヤツヤして、頭の上のところでくるんと光の輪を作っていた。
この人は、人だろうか。本当にこの世のものなのだろうか。
でもその人は、
「ミカミテル」
と名乗った。
なんだ人間か、と私は思った。
名乗られてしまったので、こちらも名乗る。
「私は、木野花」
と言うと、
「だから何」
と、突き放されてしまったのだった。
「そこどいてください」
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