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天使の瞳
彼は天使みたいにきれいで、そのくせ氷のように冷たかった。私はそれを誰よりも知っていた。
サークルで一緒だった彼が同じアパートに住んでいると知ったのは、彼の部屋を出た早朝のこと。
一ヶ月前につらい失恋をしたばかりの私は、いつもの飲み会で強かに悪酔いした。そのときに介抱してくれたのがドイツからの留学生、カールだった。
「大丈夫? 大丈夫?」
日本語は問題なく話せるはずなのに、カールは同じ言葉を繰り返すだけだ。私はトイレで吐きながら、苦しみながら、やけっぱちな気持ちでカールに言った。
「今夜、泊めて」
「え、うちに?」
「いいじゃん、泊めてよ」
「別にいいけど」
「バイト代出たばっかだから、これでタクシーでカールんちに連れてって」
トイレから出て、バッグから財布を出して、一万円札をカールに押しつけた。私はそのままふうっと気持ちが抜けた。
そこからの記憶は、全然ない。
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