2人が本棚に入れています
本棚に追加
「サークルで一緒ってだけで、セックスするかな? カールってドイツにいてもそうだったの?」
「そんなことないよ、好きな人としかしなかったよ」
「じゃあ、私のことは本当に好きなわけでもないのに、セックスしたんだ?」
「サークルで一緒だから好きだよって言ったよ、俺」
「なら、私のことが好きなのね?」
「まあなんとなく好きかな」
カールのキャラがわからない。今だって、全然優しくない。彼の目が冷え冷えしている。好きでいてくれるなら、もう少し優しい顔をしてくれたっていいのに。
私はコンビニ飯が美味しく感じられなくなって、ご飯を残したままふたをして、またレジ袋に突っ込んだ。
「育ちゃんこそ、俺のこと好きじゃないでしょ」
カールの言葉に、うっと息がつまる。
「好きでもないのにセックスするのは、そんなに楽しいことじゃないよ。やめた方がいいよ」
「私は……カールと抱き合うのはいいなと思った」
「抱き合う……セックスだけ、よかった?」
「……このまま付き合ってもいいなって思った」
「嘘ばっか」
カールの冷たい目が、私の目を貫いた。
「そういう嘘を言う育ちゃんとは、付き合えないよ。優しくもできないよ」
「嘘って」
「だって、昨日の夜からヤケ酒だったし」
「それはそうだけど、カールと抱き合うのはよかったよ」
「それもヤケだよ。俺のことが好きなわけじゃないよ」
私はもう、ここにはいられない。なにもかも、カールの言う通りだった。やけっぱちでセックスして、そのまま付き合うなんてあり得ない。傷ついているのは、カールの方かもしれなかった。
「ごめんね、私が悪かった。帰るよ」
「そっか、じゃあまた学校でね」
「カールさ、フルネームなんだっけ」
「カール・シュライアーだよ」
「ありがとう。覚えた」
「育ちゃんは、高野育だよね」
「うん、ありがと」
「またね」
私は自分の部屋に戻った。エアコンのかかったあったかい部屋で、床に座り込んで泣いた。なんで泣くのか、自分でもわからなかった。
カール、ごめん。自分勝手なことして、ごめん。
あなたが最後に「またね」と言ってくれたとき、あなたの瞳はあたたかく優しかったよ。
【完】
最初のコメントを投稿しよう!