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ぼくはいつもの公園のベンチにすわっていた。
最近は足が痛くて遊べないのでいつもベンチにすわっている。
そうするといつもの様に、いつのまにか隣にお兄ちゃんがすわっていた。
「おはよう」
ぼくがそう言うと、お兄ちゃんもいつもの様におはようと言ってくれる。
お兄ちゃんと言っても、ぼくたちは兄弟じゃない。
いつもここで会うよそのお兄ちゃんだ。
いくつかも知らないけど、いとこのミー姉ちゃんと同じくらいだと思うから、たぶん去年くらいに成人式に出てるんじゃないかなと思っている。
「寒くない?」
お兄ちゃんがぼくに聞いた。
そういえばもう秋だから肌寒い気はしている。
「うん、でも大丈夫。カーディガン着てるから」
「それなら良かった」
しばらくお兄ちゃんと昨日の夕ご飯の話をしていると、急にサッカーボールが飛んできて、お兄ちゃんの頭にぶつかった。
サッカーしちゃいけない公園なのに、高学年の子供たちが遊具の隙間でボールを蹴って遊んでたみたい。
それが運悪く飛んできたのだ。
痛かっただろうけど、お兄ちゃんは怒りもせずにそばに落ちたボールを投げて返してあげていた。
遊んでいた子供は少しおどおどしていたけど、軽く頭を下げてまた遊び始める。
「やめればいいのに」
ぼくがボソッとつぶやくと、お兄ちゃんはぼくの頭をなでた。
「大丈夫?お兄ちゃん?ケガしなかった?」
「大丈夫。頑丈だから」
子供の親たちもその近くにいて、親どうしでおしゃべりしている。
でも、少しこっちに顔を向けたけど、関係ないみたいに顔をそらして、すぐに笑ってまたおしゃべりが始まった。
「お兄ちゃん、いつも優しいね」
「優しくないよ」
「優しいじゃない、文句も言わないなんて」
「私は悪い人間には忠告しないんだ。だから私は優しくないよ。その証拠に、あの子供と、あそこで笑ってるあの親は、そのうち地獄に落ちるよ。私は助けないし」
「そうなの?」
「ああ。ね?優しくないだろう?」
「うーん。よく判んないや。僕には優しくしてくれるから」
お兄ちゃんはいつもの様に、優しく微笑んでいる。
お兄ちゃんはベンチから立って、少し散歩をしようとぼくに言った。
お兄ちゃんは背中に羽があるので、本当は背もたれのあるベンチにすわるのは苦手なのだ。
それからぼくらは、いつもの様に散歩にでかけた。
ただ不思議なことに、ぼく以外の人にはお兄ちゃんの羽は見えていないらしい。
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