娘の存在

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 俺は娘の姿を電柱の影に隠れて見ることができた。俺にはどうしても一人娘の姿だけ見たかった。  娘の恵に前回会ったのは、五年以上前だ。あの時はまだ中学生だった。  大学生になった恵を最後に見れて良かった。本当に立派に育ってくれた。  俺は横にいる刑事に感謝を述べた。 「刑事さん、最後に恵に会わせてくれてありがとうございます。もう思い残すことはありません」  刑事は俺と恵を見てから深く頷いた。 「それでは約束通り、おまえを逮捕する。裁判になったら、おそらく無期懲役になるが、覚悟はできているな」  俺は涙を堪えて頭を下げた。 「はい。わがままを聞いて頂いて、ありがとうございます。温情ある刑事さんに救われました」  俺は罪を犯してから五年間逃げ回っていたがとうとう捕まってしまった。でも刑事に頼んで、一目、娘の姿を見たいという要望に応えてくれた。娘の姿を瞼の裏に焼き付けて、俺は刑務所で一生を過ごした。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加