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音を立てて秋風が吹く夜、ブリュッセルの街外れにジュリアンが降り立った。彼はダイナマイトとコートを抱えている。
コンクリートに足を着けた瞬間、バランスを崩して尻もちした。月明かりが照らすスニーカーのシルエットは、真上に伸びる2本のタケノコみたいだ。
着地の勢いは翼で調整して上手く殺していたはず。すぐに立てないのも無理もないか。2本足で立つなんて800年ぶりだし。アメリカで聞いた話、数年ぶりに地球に帰った宇宙飛行士も元通り歩くようになるまで苦労するらしいし。
暗がりでひとり、立ち上がっては尻をつく。
ジュリアンは白い息をはきながら、黙々とそれをくり返した。彼の時代と比べて、吸った空気は恐ろしくまずかった。
体力的な問題はない。一時的に人間に戻るにあたって、二十代前半の姿を選んだ。肉体の全盛期であれば、もし、誰かから追われる羽目になった際に逃げやすいし、夜のブリュッセルを堂々と出歩くには、頭のネジの外れた学生を装うと馴染みやすいと考えた。
30回ほど試行して、直立できた。
なんとも不思議なもので、1度感覚を取り戻した途端、足裏から地中深々
に根を生やしたように安定した。
イメージの根をするするっと引っ込め、1歩、踏み出してみる。
着地がぶれない。つま先から踵まで、正しく機能している。
ジュリアンは厚手のコートを羽織った。秋の寒さをしのぐにはやや大袈裟だし、ちょっと動きにくい。背中の翼とダイナマイトを覆い隠すには、この上なく都合がいいからやむを得ない。
さぁ、小便小僧の噴水を目指そう。
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