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足音のわりに、2人の到着が遅い。
ジュリアンが車から顔を半分だけ出す。
2人とも、補助輪を外して間もない自転車の軌跡を描きながら、こちらに向かってきている。
泥酔のレベルには届かないないものの、それなりに酔っているようだ。
蛇行の末、男女はようやく小便小僧の元にたどり着いた。
ジュリアンに焦りはなかった。
小便小僧は、日が昇るまで長居するほどの観光スポットではない。彼らが去ったあと、人々がこの辺りを出歩くまでにダイナマイトを探し、爆破する猶予がなくなることはあるまい。
男女はスマホを掲げて、ときにアウトカメラで、ときにインカメラで、思い思いに小便小僧の撮影を始めた。
「子供にしても、小さくない?」
「導火線を尿で消す、なんて行動に出る時点で、やっぱり立ちションの常習犯だったんだろうな」
「インスタに上げたいけど、こんなのいいねつくかな」
「なんか策に小便小僧の解説があるわ。読まんけど」
1枚撮る度に、男女は率直な感想を並べ立てた。
それらは否応なしにジュリアンの耳へと届いた。
彼は爆発寸前だった。出血しかねない強さで唇を噛んで憤りを堪えていた。
ダイナマイトが手元になくて、かえってよかった。
一心に思った。でないと、とっくに導火線に火をつけたダイナマイトを彼らの元に投げつけていた。
「これ、なんだ?」
気づけば、男の方が筒状の何かを手に持っていた。
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