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神様、断じて引き下がりませんよ。僕は生前――こうして天使となる前は――ブリュッセルの、いやベルギーの英雄だったのですから。
天界に音を遮る物体はない。ジュリアンの直訴はどこまでも続く雲海の果てまで轟いた。
5分も経たぬうちに、何事かと、方法から天使が50は集まった。皆、ジュリアンと神様を囲い、100メートルを全力で駆け抜けた脈拍のリズムで羽ばたいている。
議論の行く末を見守り、事と次第によってはジュリアンを取り押さえるつもりだろう。天使の中には、弓を構える者もいる。狩猟用ではないハートの矢で射貫いても、殺傷能力はあまり期待できないだろうに。
目の前の神様はうーむ、と唸るばかりだ。
「僕のお願い、そんなにおかしいものですかね。死人を勝手にモデルとして造り、史実が真っ当に評価されにくくした、自分自身の像の撤去を求めているだけなのですが」
神様は眉間の皺を指先で撫で、まぶたを閉ざした。
「何を渋っているのですか。あなたの働きで、直ちに、下界の小便小僧を撤去してください。罪人でなく、功績を遺した人間を晒してどうするのです」
今からざっと800年前、まだ幼少期だったジュリアンは多くのブリュッセルの民を救った。テロが起きた際、彼の近くに投げ込まれたダイナマイトを無力化した。
導火線に放尿し、鎮火させて。
機転を利かせて多くの人命を救ったジュリアンは伝説となった。
彼は生涯、その武勇伝を誇りとしていた。その話を聞いた誰しもが、彼の勇気に一目置いていた。
少なくとも、彼が死を迎えるまでは。
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