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「ご家老、まがい物などと、また聞き捨てならないお言葉、あんまりです」
「おや、そうであったか、済まん。でもな、いつのことだったかな、お主から買った黄門様の印籠。この間近所の神社であった祭りの夜店にも、同じものが並んでいたぞ」
「あら、そんなことが。おかしいですね。それはきっと四葉の御紋ではなかったでしょうかね」
「何をいうか、そんな馬鹿な。それで今日は何を」
「ご家老、よくぞお訊ねに。本日は特別の品をご用意しております。どうぞご覧ください」
「どれどれ、見せてみろ。どんなものかな」
「は、お目が高いご家老のことですから、めったなものではご満足をいただけませんので、特にいいものを」
「なにをいうか。またなんだか分らんものを持ってきて、元値の十倍で売りつけようとしているのでは」
助左衛門も、口ではそんなことを言ってるが、弥吉が持ち寄るものの中にすこぶる良いものがたまにあることは分かってきた。今日もなにか良いものはないかなと身を乗り出す。
「ご家老、滅相もありません。ほんとに良いものです。あたくしとしてもこれを手に入れるために大枚をはたいております。ええ、いつもご家老様が喜ぶお顔を目に浮かべながら」
「よしよし、能書きはよろしい。で、何を持ってきたか」
「は、これであります」
弥吉は、斜め後ろに置いてあった風呂敷包みから、何やら筒状のものを取り出す。
「お、それは掛け軸かな」
「は、おっしゃる通りであります。これは何を隠そう、あの高名な井東若冲であります」
弥吉は、筒から掛け軸を出すと家老の前に広げる。
「ほほう、井東若冲とな。どれどれ」
助左衛門は、広げられた掛け軸を隅々まで眺める。
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