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残された坂井さんはどうしているのだろう。化粧品売り場を見てみた。横山さんに言われたのだろう、せっせと化粧品の棚をハンディモップで掃除していた。ひとつひとつ商品をどかしながら丁寧に掃除をしていた。
「あの、アイシャドウ欲しいんですけど」
お客さんが坂井さんに声をかけた。分かるのだろうか。僕はいつ呼ばれてもいいように、化粧品売り場の側で待機する事にした。
「いつも使っているメーカーとかはありますか?」
「メーカーは決めてないです。中々似合う色が見つからなくて」
「う〜ん、そうですね。ちょっと手を見せてください」
坂井さんはお客さんの手を取った。
「お客様は”イエベ”なので、寒色系よりも暖色系が似合うと思います」
「イエベ?」
「はい。イエローベースの事です。人の肌の色はイエローベースとブルーベースに分かれていて、その肌色に合うカラーを選べば間違いないです」
「そうなの? どこで分かるの?」
「例えば、手首の血管が緑色だったらイエベ、青だとブルベです。他にもゴールドが似合うならイエベ、シルバーが似合うならブルベ、とかです」
「へー、そうなの。で、私には何色のアイシャドウが似合うの?」
「そうですね。ピンクとかオレンジとかの暖かみのある色が似合いますよ」
「そうなんだ。じゃあ、使った事ないけどオレンジに挑戦してみようかしら」
「きっと似合いますよ」
その後もどのメーカーの物はラメが細かいとか、もちがいいとかをお客さんに説明していた。お客さんは機嫌よく買い物をされ帰って行った。
イエベとかブルベとかは聞いた事はある。でも診断の方法までは知らなかった。おすすめの色なんて尚更分からない。さすが化粧好きなだけあって知識がある。新人だからと侮れない。
「坂井さん、化粧品の知識凄いんだね。感心したよ」
「お化粧好きですから!」
「この調子で頼むね」
「あ……でも、パーソナルカラーの診断って本当は難しいんです。デパートとかサロンでは専用の道具があって、きっちり診断できるんです。私もやってもらいました!」
「そうなんだ……その道具って高いのかな? ちょっと調べてみるよ」
「えー! そんなのあったら私1日中診断しまくります!」
「ははは。あんまり期待しないでね」
「私も探してみようかな。ネットで買えるかな」
化粧品への情熱は伝わってきた。ただ仕事は化粧品を売るだけじゃない。社員ともなれば店全体に気を配らなければならない。早急に薬の資格も取ってもらわなければならない。事務仕事だってある。こっちも仕事しながら教えなきゃならないから普段通りに仕事は進まない。また今日も残業かな……。
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