星が降るのは君のため

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 「なんでー!?」  喫茶店でいきなり叫んじゃったけど許してほしい。だって、一回二百円でコスプレ男子が現れたんだもん。 「大丈夫か?」  しかもイケメン。やさしくのぞきこんでくれるのは嬉しいけど、 「それ以上、近づかないでください・・・」  テーブル挟んで座ってるだけで、心臓がバクハツしそうです。三十年近く生きてきましたけど、ちっともご縁がなかったもので、イケメン耐性ゼロなんです。 「とにかく、この状況っていったい」  まともに向き合うのを避けながら数分前を振り返る。 「私、そこの丸いのに」  テーブルの隅にのっていた、プラスチックの球体。中に、飴玉みたいなカラフルなカプセルがいくつも入ってて。ガチャガチャみたいなカンジの。 「うん」 「天詩(てんし)、って書いてあるから、なにそれ、天使じゃないの? っていうか占いみたいなもんかな、それともポエム? って、実に、か~るい気持ちで何気なく」 「うん」 「二百円入れて、ボタンを押したら中身が一つ転げてきて、それだけなのに」  もっと言うなら、こっちいるのもあと一週間だし、気になってた近所の昭和レトロっぽい喫茶店行ってみよ~、ってすっごい気楽に出かけてきただけなのに。 「いったいなんで、こんなことに・・・」  イケメン拝めて大変ときめいておりますけれども。心の準備ができていません! まばゆい!  パニック冷めやらぬ私を見守る瞳は深い青色。薄くきらめく茶色の髪は、自由に流れる綿雲みたいにふうわりさらり。なにより衣装がフシギ。光沢のある白い布で、ギリシャ神話の神様みたいに肩も腕も胸も全身グルグル巻きになってる。 「いったい、何枚」 「一枚。分解しようか?」  慌てて肩口の金具にかけた手を止めた。 「脱がなくていいです」  イケメンの上に天然か。 「んじゃ、はい」  掌を両方差し出されて、首を傾げた。 「ボタン。押したよな」 「!」  不意に手を取られたかと思えば、彼と私の額と額もこっつんこしていた。隕石衝突並みの衝撃に、脳天から爪先まで貫かれる。近い近い近い! 近すぎる!  昇天しかけた脳味噌に、ふと宇宙が流れこんできた。一面の群青色に銀白が渦を巻き、ガラスをまいたようにきらめく無数の星々。うわぁ・・・生身で宇宙遊泳してるみたい。 「はい」  ようやく離れたイケメンに手渡される。A4サイズの用紙に、さっき見た宇宙が切り取られていた。 「天詩」  これが? よくわからないけど、星の美しさに見惚れる。
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