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「もう、雷ったら!」
パン。再び、風船が弾ける効果音が鳴ったと思ったら。次は美少女。ブロンドくるくる巻き毛に、ベビーピンクのドレープたっぷり衣装にすっぽり包まれて。桜色のほっぺがつやっつや。
「ヒドイですわよ、いつもわたくしを置いてきぼりにして」
「ユメがいなくても、一人で仕事できるし」
「そんな勝手ばかりするから、いまだに見習いなのでしょ」
「なにこれ、すっごい眼福」
思わずスマホを取り出した。ギリシャ風美青年と美少女がイチャイチャしてる~。
「わたくしたちは写りませんのよ」
「え」
美少女の指摘に、シャッターを押しまくる指を止めた。
「わたくしたちのことが見えているのは、あなただけですし」
「そうなの?」
「声が聞こえているのももちろん、あなだだけですわ」
えぇそれ私、どんだけ迷惑な客?
「もっと早く、教えてもらいたかったです」
さんざん、一人で驚いたりわめいたりしちゃったよ。
「あらためまして、ご挨拶申し上げますわ。天からあなたへメッセージ、天詩をお届けにあがりました、天のお使い、つまり天使のわたくしユメと」
輝く美少女スマイルに促されるが、彼はまったくとりあわず、私の部屋にところどころ積まれた段ボールを眺めていた。
「引っ越し?」
「うん。田舎帰るんだ。仕事ももう有休消化するだけだから、荷造りして来週には」
「もう! 雷!」
「ヤだし、なんかわざわざそういうの。フツーでいいじゃんフツーで」
イケメンて。しかめっ面でもイケメンなんだな。
「ご挨拶は大事でしょう? 減点しますからねっ」
「ユメちゃん。私ちゃんと聞いてましたから」
どこからか赤い手帳を取り出し、羽根ペンで書きつける涙目の少女を慰めようと思ったんだけど、
「雷はわたくしのですからね」
「あ、ハイ」
睨まれて小さくなるしかなかった。大丈夫です、恐れ多くて一メートル以内に近づけないです。
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