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「ごめんなさい」
部屋で二人に謝り倒した。多大な手間をおかけして。私は何もできませんでした。
「わたくしたちは構いませんけど」
でも声、尖ってます、ユメちゃん。
「わたくしたちが、光希さんといられるのも明日までですし」
え。
「そうなの?」
「うん、一回二泊三日」
「そうなんだ」
そりゃそうだよね。一回二百円で、まさか天使がずっといてくれるわけもない、か。
「明日まで、チャンスはある」
「また協力してくれるの?」
「光希がそうしたいなら」
「でも、どうせ何もできないのなら。ムリなさることありませんわよ」
疲れました、とユメちゃんは、さっさとベッドに潜りこんでしまった。
本当に、申し訳ない。
せめてベッドをゆっくり使ってもらうことにして、クッションを枕に寝転がってみたけど眠れない。
ベランダに出ると、雷が手すりに腰かけていた。
「危ないよ」
「飛べるし」
あ、そうか。距離を取って、手すりにもたれる。ちょっとずつ、イケメンにも慣れて最初より落ち着いて話せるようになったけど。月明りの下の雷の横顔は、神々しいくらいに美しい。
「雷は。どこから見ても天使なのに、見習いなんてなんかヘンだね。いいの? ユメちゃんに減点されて、見習いのままで」
「どっちでもいいな。オレは、天詩に従う天からの使い、より、天詩を使える天使いになりたい」
「天使い?」
「人の数だけ願いはあるから。人に合わせて読めばいいじゃん。星は光希のためにあるんだ。生まれた日にも今日ここにも。読み方のルールは基本だけど、テキストどおりにしか読めないんじゃ面白くないし」
彫刻みたいな横顔が、いたずらっぽい笑みに崩れる。胸を締め付けられる。
「すごいね」
イケメンて。言うこともイケメンなんだ。
「私。マンガ家になりたかったんだよね。田舎じゃ、なんにもないからさ。都会なら、楽しい出来事が毎日起こって、描くこといっぱいあるんじゃないかって思ってた。でも、実際は、生活するのに働くので忙しくって、疲れてマンガどころじゃなくて。楽しい出来事も何も――胸ときめくオフィスラブも、お洒落なバーでの出会いも、パリピなイベントも、何にも縁がなかったな。カイトくんまで引退しちゃうから、もういいやって、帰ることにしたんだ。帰っても、なんにもないんだけど」
天にはホントは星がいっぱい輝いてても。ここからじゃ全然見えないね。少し、声が震えてしまったかもしれない。
「ん」
雷は無造作に、踊りましょうか、みたいに左手を差し出してくる。少し、ドキドキしながら、右手を伸ばした。
「目閉じて」
言われたとおりにして、驚いた。
「わ」
流れ星! 見えた。真っ暗だと思っていた空に一筋キラリ。
「すごい。きれい」
この胸に溢れる感動を、もっと言い表したいのに、それしか言葉が出てこない。
「その笑顔で、選んで」
雷のやさしい声が、鼓膜に染みた。
「ここも帰るのも、どっちもつらそうだった。光希の瞳が曇ってたら、星見えないよ。ここに残るにしても、帰るにしても、笑顔でいられるときに自分に聞いてみて。同じ、帰るって結果になったとしても、今より笑えるはずだから」
やさしくて。初めて雷をまともに見つめてた。
「どっち選んでもいいよ。どっち選んでも、ちゃんと光希の未来だよ。ちゃんと星が、照らしてくれる」
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