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 タロスは円師(えんし)である。  師匠の元から独立して、もう十年になる。  このごろでは(わざ)に磨きがかかり、依頼が引きも切らない。彼の師匠であるゼオンの顧客(こきゃく)が、タロスに乗りかえることも、少なくなかった。  円師は依頼を受けた家に出向き、家人の前で、板に、赤い円を描いてみせる。  トリュプリの花を煮詰めて作った赤い染料(せんりょう)は、高価である。だから、貧しい家では、てのひらほどの板の上に、木の枝先をペンにして、小さな円を描く。金持ちの家では、人の上半身ほどの大きな板に、ヘラを使って、太く大きな円を描く。  円の描かれた板は、家のなかの、南側の壁にかけられる。そして、冬至(とうじ)の日に、礼拝堂(れいはいどう)に持ちこまれて、燃やされる。  人々はその炎を囲んで、勢いのおとろえた太陽の復活と、春の到来を祈るのである。
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