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「で、見つけたんだよ。アンタの依頼の人。もっと喜んでいいんじゃない。ガン萎えー。」
口、鼻、耳のピアスと紫の髪の色。どうみても10代の女の子。
「僕が探して欲しかったのはお墓の場所情報だよ。ばあさんは墓参りがしたいって。墓の当事者は、既に死んだいるんだけれど。」
僕は別にキューピッドに墓探しを依頼したわけではない。僕のばあさんが、突然、『この人の墓を探して欲しい』と言われたことを、とある興信所に依頼に行っただけだった。
「墓の当事者が生きていたなんて聞いてないよ。本当にその人なの?」
興信所にいたんだ。この女の子、自称、探偵兼キューピッド。女のこがヒマだから成功報酬5,000円ぽっきりで探すって言うから、僕は依頼したんだ。
女の子はむきになった。
「だって、その人、マジ生きてたんだから。ほれ、これが施設の住所。早く、成功報酬5,000円頂戴。それから、キューピッドの矢を使った場合、プラスで5,000円。」
僕のばあさんは、来月100歳。僕のじいさんの方は既に他界。ばあさんは自分が死ぬ前に、要するに既に死んだと聞かされている昔の彼氏の墓参りをしたいと、突然、僕にお小遣いを握らせながらお願いしてきたわけ。僕の父さんにも母さんにも内緒で。
女の子の言っていた、
「キューピッドの矢、超マジ使った方がいいよ。その人、完全にぼけているよ。重度の認知症。キューピッドの矢って、結構、脳にバリ刺激だよ。」
ちょっと気になった。
僕はばあさんに、「和夫さんって人、まだ、生きているって。」と話をした。
100歳の老婆のあまりのびっくり様に、死ぬんじゃないかと思った。
「でも、認知症でぼんやりしているだけだって。」
それでもばあさんには行くって言うので、僕も追加の小遣いゲットのため、一緒に付いていった。
施設の個室に和夫さんは車椅子で連れてこられた。
視点の定まらないぼんやり、は事実だった。
「間違いない。和夫さんだよ。間違いないよ。」
100歳の老婆の鼻水を垂らした顔と、相変わらずぼんやりと視点が定まらない和夫さんの顔は、過去に何があったのか、さっぱり推測できなかった。
その時、何故?どうやって?あの女の子がいたのだ。
そして、僕が頼んだわけではなかったのに、女の子は矢と弓矢をもって、勢いよく、和夫さんに矢を射った。
矢は刺さった瞬間に消えた。
その瞬間に、和夫さんの目の焦点が動いた。
「ハルさん」
ばあさんの名前だった。
和夫さんの目からも涙がこぼれた。
「超マジで、追加1,000円もらうからね。」
言い終わらないうちに、女の子も号泣していた。
=終わり=
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