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佐野貴也・手紙
アパートのポストに妙な手紙が入っていた。
「――え? ラブレター?」
「そんなんなら、どんな相手でも喜んで受け取るけど、俺宛だよ? どんなにまかり間違ってもありえねえだろ。良くて罰ゲーム、じゃなければただの嫌がらせ」
「……貴也は相変わらず自己肯定感低いな」
社会人になってから久しぶりに学生時代の友人と駅最寄りの飲み屋に来ていた。自己肯定感とかいう苦いつまみをビールで一気に流し込むと、哀れんだ視線を寄こす友人と目が合った。そんな目で見られても肯定感の上げ方なんて分からないし。
勉強もスポーツも容姿もそこそこ。親から罵詈雑言を浴びせられることは無かったものの、期待や希望の眼差しを向けられたことも無かった。彼女がいたことが無ければ告白をされたこともない。友人関係は狭く浅く。学生時代からの友人と呼べる相手はコイツだけで、社会人になってからもプライベートで会う相手は更新されていない。喋りが面白いわけでもないし、趣味という趣味も無い、面白みに欠ける人間。ああ、最近よくやっていたことを強いて言うなら、ペットショップに行ってネコを眺めることくらいか。でもそれもここ一年は行っていない。詰まるところ、なんの取り柄も無い普通を代表する普通の人間だ。普通が一番幸せと言う勝手なやつらもいるけれど、そう言われるとなんだか腹が立つ。何が幸せか、なんて、人それぞれ違うものだろ。
「それで、その手紙、何て書いてあったんだ?」
「――ん? あー。出がけだったからまだ読んでない。パッと見、差出人名もなかったし、えーと確かここに」
ポケットに突っ込んでいたせいでくしゃくしゃになった封筒をカウンターテーブルに置いた。
「なんだ、差出人の名前はないけど、見た感じ普通じゃん。どこが妙な手紙なんだ?」
「……あー。まあ、手紙自体もらったことないからそう思ったのかも」
「見てみたら?」
「おー。なんてことないセールスとかかもだけど」
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