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佐野貴也・罪悪感
『サノタカヤさま。その節は、消えそうな命の灯火に再び炎を灯してくれたこと本当に感謝しています。この溢れる気持ちをどうしても伝えたくて、ここまで来ました。神様にも誓えます。ボクはあなたのことを心から愛しています――……』
あいつはこの手紙を読んで身に覚えがなければ本当に悪質な嫌がらせかストーカーの可能性もあるんじゃないかと眉をひそめて、指で挟んだ手紙をヒラヒラと振った。この俺に? いやいや、どっちにしろ縁がなさ過ぎてピンとこないよ。そう笑って答えて、本当は頭を過った子がいたけれど、その子のことは変に思われても嫌だし胸の奥に仕舞っておこう。
「……消えそうな命の灯火……」
ちょうど一年前の、今くらいの時期だろうか。弱っている子ネコを保護したことはある。でもだからといって手紙の差出人がネコであるなんて思ってもいない。けれど。
――助けて……!
あの時、なんとなくそう聞こえた気がした。足が勝手に空き家の中へと向かった。そして痩せて小さく震えていた子ネコを見つけた時、今俺が助けなければこの子は死ぬ、直感的にそう思った。
ポストに入っていたこの手紙を見つけた時、あの時の直感に似ているものを感じた。あり得ない。あり得ないことなのに、頭ではあり得ないと分かっていながら、どこかそれを否定したい自分がいる。
「いらっしゃいませ――あ! 佐野さん、お久しぶりです」
ああ、思い出していたら体が自然とここへ向かって来てしまった。ポケットに突っ込んでいた手を出して、丸めていた背をしゃんと伸ばす。
生きものを飼ったことがない俺は、子ネコを拾うと、よく立ち寄っていた近所にあるこのペットショップを訪ねては色々よくしてもらった。目の前でニコニコと笑うこの店員さんも親身になって相談に乗ってくれた。
それなのに、俺は――。
直ぐに引き返そうかと一歩後退りしたけれど、踏ん切りが付かなかっただけで、近いうちに店を訪れて事情を話そうと思っていた。
だから、今すぐ、ここで、心を決めるしかない。
「しばらくお見かけしないから気になってたんですよ。ソラちゃん元気ですか?」
――ほら、俺から言葉にしなくてもあっちから核心をついてくる。共通話題というか、店員と俺を繋いでいるものがソラだから当たり前のことだけれど、全く悪気のない朗らかな笑顔は罪悪感をさらに奥までえぐる。だから足を運ぶことができなかったワケなのだけれど。
「――あの……、それが」
俯く俺に、店員は何かを察したのか直ぐに気遣わしげな表情を浮かべ、店の奥へと促した。
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