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佐野貴也と朱莉と空
「会いに来てくれてありがとう、ソラ」
そう言うと、ソラの気配が消えた。
それは店員が顔を赤くして口をパクパクし始めたから、異変を感じ取ることができた。
「――へっ、えっ、まっ」
「……?」
急に挙動がおかしくて心配だ。ソラが憑依――この表現が正しいのかは別として――したせいだろうか。
大丈夫ですか? と聞くと、大丈夫じゃないので私のそばに居て下さい、という摩訶不思議な解答が返ってきた。
その日を境に、俺とペットショップの店員の朱莉の距離は少しずつ縮まって三ヶ月後には付き合うことになった。
「なんだかいきなり矢で射貫かれたような衝撃があって」
と、朱莉はあの日のことをそう振り返る。もしかしたら、ソラが本当に天使になっていたなら、恋のキューピットだったもかもしれない。勝手にそんなこと思っているけれど、彼女にはそんなメルヘンなことは恥ずかしくて言えない。
ソラからもらった手紙も会いに来てくれて言葉を交わしたことも俺とソラだけの秘密で宝物だ。
「あっ! 見て、空! 天使の羽みたいな雲。キレイね」
この空のどこかで、大きく羽を広げて自由に羽ばたくソラを思い描けば、いつでもそばにいるような温かな気持ちになる。ふわりと頬をなでる風はいつだってソラの羽。
だから空を見上げるたびに俺は幸せになれる。
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