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第2話
◇
ある朝、へレネは弟ルークと廊下で鉢合わせた。
「おはよう、ルーク」
「……おはようございます、姉上」
彼らは、お世辞にも仲がいいとは言えない。
というのも、ルークが極端に冷たくまるで嫌っているかのような態度をとるからだ。
へレネは健気で、いつも弟に話しかけているが。
「はぁ〜、どうしてあんな態度をとるのかしら?」
「嫌われているのでは?」
純粋な疑問にばさっと答えるリサを咎めるような目で見ながらはぁ、とため息をつく。
「言うようになったわね」
「ええ、何年ヘレネ様のそばにいるとお思いですか?」
どや、とするリサは少し鼻が高そうだ。
「これでもヘレネ様は自慢のお嬢様なのですから!」
「こっ…これでもって何!?」
彼女は、「まったく、これだからリサは」とムッとする。
「さあ、パーティーの支度をしましょう」
「ええ」
そう、今日は大切な友達、ミアの誕生日パーティーだ。
彼女の家は伯爵家だがヘレネの家であるマーガレット家とも親しくしている。
「今日もリシェルはかっこいいんだろうなぁ〜」
「ふふ、そうですね、ではそのかっこいいリシェル様のハートを掴んじゃいましょう!」
なんだかんだこの侍女も張り切っている。面白半分だが。
今日は、淡いピンク色の髪の、桃髪碧眼のヘレネによく似合いそうな白と水色のドレスだ。そしていつもはあまりしない、大人っぽく化粧し髪を結ってアクセサリーをつける。
「本当にお綺麗ですよ」
リサがそう褒め言葉を口にしたところで、リシェルが迎えにきた。
「お待たせしました!」
「ああ、大丈……っ」
振り返った途端、リシェルは頬を染めた。
だがその様子にへレネは気づかず、「どうかした?」と首を傾げた。
「いや……なんでもない。今日も可愛らしいな」
「……ありがとう」
彼女自身、一生懸命笑っているつもりだった。
(やっぱり、妹のようでしかないのね、私は……)
ヘレネはそう考え、笑顔の裏で少し寂しそうな表情を見せた。
◇
「今日もお似合いね」
「桃髪碧眼のヘレネ様と、銀髪で翡翠色の瞳のリシェル様。本当に美男美女で羨ましい」
「しかも仲睦まじい」
ヘレネたち二人の噂は、もうずっとこの調子だ。
リシェルだってもう弁解すらせず放っている。だからヘレネたちは相思相愛みたいになっているのだ。
ダンスの時間ですら、主役よりも目立つことだってある。
だけどこれは、女性であれば一度は恋に落ちる、リシェルのせいだ。
たまにヘレネに敵対心剥き出しの女性もいる。
今日も、ファーストダンスからいろんな意味で歓声が上がっていた。
「きてくれてありがとう。ヘレネ」
「ミア!お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
ミアは、男性にとってその可愛らしい容姿が庇護欲を掻き立てるらしく、とても人気だ。
「それと……リシェル様も、ようこそおいでくださいました」
「いえ。ミア嬢もお誕生日おめでとうございます」
ミアは薄く頬を染めている。
けれど、鈍感なヘレネは気づかないのだーー。
◇
「ねぇ……お聞きになりまして?」
「もちろんですわ」
ここ最近は社交パーティーやお茶会が多い時期だ。
そして、今日はヘレネだけ招待された、ある公爵夫人が開催した茶会で早速ある噂があった。
しかも、皆ヘレネのだけは聞かせられまいとヘレネを避けている。
「どうしたのかしら……?」
ヘレネ自身、嫌われてはいない。
むしろ好感度が高く、よく社交界に誘われるのだ。
だけどーー。
「ねえ、皆さん、どうなさいまして?」
「え、ええっと、それが……」
すると、昔ヘレネに敵対心を剥き出しにしていた女性の一人が誇らしく言い放った。
「リシェル様が本当に愛していらっしゃるのは、ミア様だそうよ?」
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