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放課後、彩はいつものように窓を開けてグラウンドを見下ろした。
窓の向こう、梅雨明け間近の青空に、カキンと気持ちのいいバッドの音が響く。
七月。夏の高校野球の県大会を前に、野球部の練習が日に日に熱を帯びているのが、この二階の教室にいても感じられる。
彩は手作りのお守りを握り締め、幼なじみの立花大河を目で追った。
今日も外は蒸し暑い。
そんな中、大河はキャッチャーの防具を身につけ、グラウンドにいる。
(大河……。倒れたりしないかな)
心配で彩が身を乗り出した直後。
大河が何かを叫ぶ声が聞こえた。
力強い野太い声は太陽にも負けぬほど元気いっぱいである。
(……ま、大丈夫か。あれだけ元気なら)
彩は冷静になり「はあああー」と大げさにため息を吐いた。
「どうしてこうなったの私の天使……」
嘆きながら、側にあるリュックのポケットから、透明なブロマイドケースを取り出す。
本来はアイドルなどのブロマイドを入れて持ち歩くものだ。
彩はアイドルでも何でもない、一人の少年の写真を入れていた。
少年は夏の日差しの下、スタジアムの前で野球ボールを握り、嬉しそうに笑っている。
それはかつて天使だった頃の大河だった。
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