1/1
前へ
/5ページ
次へ

 放課後、(あや)はいつものように窓を開けてグラウンドを見下ろした。  窓の向こう、梅雨明け間近の青空に、カキンと気持ちのいいバッドの音が響く。  七月。夏の高校野球の県大会を前に、野球部の練習が日に日に熱を帯びているのが、この二階の教室にいても感じられる。  彩は手作りのお守りを握り締め、幼なじみの立花大河(たちばなたいが)を目で追った。  今日も外は蒸し暑い。  そんな中、大河はキャッチャーの防具を身につけ、グラウンドにいる。 (大河……。倒れたりしないかな)  心配で彩が身を乗り出した直後。  大河が何かを叫ぶ声が聞こえた。  力強い野太い声は太陽にも負けぬほど元気いっぱいである。 (……ま、大丈夫か。あれだけ元気なら)  彩は冷静になり「はあああー」と大げさにため息を吐いた。 「どうしてこうなったの私の天使……」  嘆きながら、側にあるリュックのポケットから、透明なブロマイドケースを取り出す。  本来はアイドルなどのブロマイドを入れて持ち歩くものだ。  彩はアイドルでも何でもない、一人の少年の写真を入れていた。  少年は夏の日差しの下、スタジアムの前で野球ボールを握り、嬉しそうに笑っている。  それはかつて天使だった頃の大河だった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加