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 次の日の放課後。彩は普段通り、一人教室に残っていた。  けれど、いつもとは違って、窓辺に立つ彩の隣には川瀬がいる。 「川瀬くん。なんでまたいるの?」  もはや遠慮など忘れて彩はたずねる。 「まだ完璧に治ったわけじゃないから部活出ても仕方ないから」 「じゃあ家に帰って安静にしてたら?」 「植村こそ帰れば?」  いきなり帰れと言われて、彩は「は?」と眉間に皺を寄せ問い返す。  川瀬は冷静な声で言った。 「ここでいくら大河のこと見てても天使だったあいつは戻ってこないよ」 「……そんなのわかってる」  わかっているけれどどうしようもないのだ。  あの頃の大河とあのままずっと一緒にいられたらと、願ってしまうのをやめられない。  自分でもどうかしていると思っている。  しかし、それを他人にとやかく言われる筋合いはない。  黙りこんでしまった彩に何を思ったのか、川瀬は謝ってきた。 「ごめん。意地悪言いすぎた。なんか植村見てたら我慢できなくてつい」 「どういう意味?」 「いや、俺もいい加減部活どうするか決めなきゃなあ思って」 「治ったら戻るんじゃないの?」 「この機会にやめよかなって」  急に大事な話を打ち明けられて、彩はまじまじと川瀬の横顔を見つめる。  もしかして、そんなにひどい怪我なんだろうか。 「……ごめん。昨日冷たいこと言って」  昨日自分が言ったことを思い出して、謝ると川瀬はニッと笑った。 「いいよ。ていうか、慰める気があるんなら俺と付き合って欲しいんだけど」 「え?」  話の流れが違う方向へ行って、目を見開く。  川瀬はさらっと言った。 「前からかわいいなって思ってたんだ植村のこと」 「何言ってるの? 私、男子からおかんとか言われてるしかわいくは……」 「本当はみんなかわいいって言ってるよ」  あまりかわいいなんて言われたことがないから、意識せずとも顔が熱くなってくる。  どうしよう。  ちらっと川瀬を見ても、もう笑ってはいなくて、真意はわからない。  もしかしたら冗談かもしれない。  どう答えればいいか悩んでいると、川瀬は言った。 「じゃあ俺今日は帰るわ」  照れたように笑う川瀬に心が揺らぎそうになった。  一人になった彩は肩の力を抜いて、窓辺に立つ。  グラウンドでは野球部の練習が続いている。  もう天使だった頃の大河はいない。  川瀬の言う通りだ。  一緒に球場へ行ったあの夏、天使は消えてしまった。  それでも彩の目は大河をすぐ見つけてしまう。  天使だった頃の彼の面影を探してしまう。  ──だめだ。  今日はあまり集中して見守れそうにない。  彩は早々に教室を出て家に帰った。
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