捨てられた二人

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「———ねぇ、君も捨てられたの?」 「…………」 独り言に返ってきた言葉のろくでもない接続詞へ敏感に反応した私は、重たい頭を声の主へと向けてみた。 「…も、って、あなたもですよね」 「うん。だから、もってつけたよ」 邪気のない笑顔で他意のないシンプルな答えを言った彼は、よく見ると整った顔立ちをしている。 ミルクティー色の髪を片方だけ耳にかけて、キラリと輝くピアスのダイアモンドは小ぶりながらも煌めきを放ち、彼自身が持つ透明感と合わさって神秘的に思えてくる。 少し重た目の前髪の下には、長いまつげに縁取られたアーモンドの瞳が真っ直ぐに私を捉えていた。 一見すると、優しそうなイメージを大体の人が抱くであろう容姿は非常に美しいけれど、だからといってこの悲しみや怒りが収まるわけがない。 「…あれ?会話終わり?」 「レスポンスが無ければ、大抵はそうです」 何だろう。見た目は私と同じくらいの年齢に見えるのに、小学生と話しているみたいだ。 「なんか落ち込んでるね、きみ」 「…そうですね」 「一緒に悲しむ?」 「そんな…何でもかんでも割り切れると思わないで下さい。二人一緒なら喜び2倍の悲しみ4倍が当社比ですよ…」 「へえ、面白い統計だねぇ。…でも、二人一緒なら、温もりは100倍になるんだよ」 「…え……、…っ!」 空に舞う雪のように軽いキスが、突如として唇に降ってきた。 「…な…何なんですか…」 前触れのない人の温もりは、今の私にとって、いとも簡単に涙腺を壊して情緒を掻き乱す。 「ええ、どうして泣いちゃうの?俺のせい?」 「…っあなたのせいではないですけど、あなたが、きっかけ…です…っ」 突然の涙へ意外にも慌てふためく彼に、みっともなく嗚咽を交えながら目も合わせずにそう吐き捨てた。 すると不意に雪が止み、気がついたら、彼の胸の中にいた。 「…何がしたいんですか…離してください…」 「んー。偉いなって。八つ当たりしないで一人で泣いてて、かわいいなって」 「…かわいいなんて、そんなの…そんなの、結局…」 かわいいと褒められるのは、ベッドの上だけ。 快感の足しになるように、調味料として加えられるだけのもの。 それでも嬉しかった。大好きだから。 その一瞬でもあなたに可愛いと言ってもらえるのならと、迷いも靄も服も何もかも脱ぎ捨ててきた。 そんな自分に心のどこかで失望して、そのことも頭の片隅では理解していて。 押し寄せる悲しさと刹那のトリップで、小さな絶望を中和し続けていたんだから。 「んーそうかぁ。するときだけ言ってくれてたのかなぁ」 「………」 「確かに、かわいいって言ったほうがお互い気持ちいもんね。…けど、そんな魔法使わなくたって気持ち良くできるし、何よりきみは抱かなくてもかわいいよ」
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