帰る場所

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「また明日ね〜」 「お疲れ様、また明日ね」 最寄り駅の改札を入り、それぞれのホームへ向かって帰路を進む。 三葉と楽しく話せたおかげで、余計なことを考えずに駅までは来れた。 けれど、ホームまでの階段を上り電光掲示板で時刻を確認しようとして、持ち上げた視線を力なく足元に落とした。 「……………こっちじゃ、ない」 そう呟いて、ひとまず端へ寄ろうと足を引きずるように移動する。 「……………………」 彼の居ない生活を、受け入れられていないんだ。 そんな心の余裕は、この先も出来る気はしない。 どうして、もう帰れないのだろう。 どうして、もう何も出来ないのだろう。 こんな悲しい想いを、受け入れられず一人で啜り泣く今があるのならば、あの時、彼の前でこの涙を流して縋れば良かったのだろうか。 マスクの中が蒸気と湿りで不快さを増していく。 誰にも見られない涙ほど、無意味で、無価値で、心を痛めつける行為はないのかもしれない。 零れ落ちる後悔を拭う力も無く、無機質なタイルを意味もなく見つめる。 すると視界の端を過ぎ行く人々の足が、不意に一人だけ止まって、つま先がこちらに向いた。 これは、多分、声をかけられる。でも、声を出したらみっともない咽びをあらわにしてしまう。 どうしようと焦って視線を泳がすと、ぶら下げていた手がすくい上げられ、驚きで視線も上がった。 「さ、帰ろっか。紫乃ちゃん」 「…………キキさん…」
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