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「でも俺、紫乃ちゃんの泣き顔はベッドの上で見るって決めてるんだ」
「————はっ?」
「あれ涙止まった。でも大丈夫、俺濡らすのも得意だか…」
「ンば…っ!バカヤロゥ!!」
顔を真っ赤にし動揺の限りを叫んだ私を見て、キキさんはケタケタと笑う。
無邪気に笑う彼を見ていると、そういえば前にもこんなことがあったと既視感を覚えた。
昨日の記憶がそれだったと思い出したところで、ついでに目の前の男の裸も思い出してしまい余計なことをしてしまう。
けれど、あのときも今も、悲しみの底に沈み息が出来ないときに、彼はこうして別の感情を連れてきて、抜け出させてくれた。
故意か偶然かで言えば、圧倒的に後者な気もするのに。
「はー笑った。んじゃ、帰ろっか」
そう言って日常から非日常に連れ出してくれる手の温もりに、心が揺らぎ始める。
駅からマンションの玄関まで、緩く、けれど確かに繋がれた右手のおかげで、その日は帰宅後すぐにベッドに倒れ込み、深い眠りに落ちた。
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