アストリットの日課

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アストリットの日課

「来たわ、3時の方向から4名!」 私は今、東側に位置する部屋の窓から遠眼鏡を覗き、ターゲットを待ち伏せている。 事は、内々に進められている王太子妃教育にある。 婚約者に内定したとはいえ、正式な式はまだ先で日取りも決まっておらず、今は、婚約者候補というポジションだ。 公爵家の子女としてマナーは学んできたが、それでは不充分なので、毎日のように登城して教育を施されている。 教育係のマイヤー夫人は王妃様のお側仕えとして、長く勤め上げてきたベテランで、私のような小娘など、笑顔で何時間も勉強に縛り付けることが可能な敏腕教育係でもある。 その夫人と、歴代教主の名前を一晩で覚えることを条件としてでも勝ち取りたかったのが正午前の休憩時間。 この時間は「午前の議会を終えた王太子様が外廊下を通る」からだ。 外廊下の位置は丁度、この部屋の窓から見える場所にあり、距離はあるが、遠眼鏡を使えば表情だって見えるくらいにクッキリハッキリ見えるのだ。 今日も時間通りに、王太子様と側近3名が外廊下を通る。 その時間、約8秒。 だがしかし、私の体感では3分間ほど。 じっくり舐め回すように、瞬きする間も惜しく観察すると、スローモーションにも見えてくる。 真冬の冷たい空気に鼻頭を少し赤くした、少し可愛らしいお顔が今日の王太子様。 後ろを歩く側近の1人が何かを話しかけて横並びになり、王太子様の姿を覆い隠すようなフォーメーションになった。 「もしかして、私の盗み見がバレてしまった?側近の方々のお仕事増やしてしまったかしら?」 お姿が隠れたのは一瞬で、盗み見発覚は気のせいだったようだ。 「白いファーの付いたマントがお似合いね。男性でファーが似合うのはアヴェル様くらいのものよ。」 ふむふむと納得しながら、御一行が建物の中に入っていく姿を見送った。 「ふー、今日のアヴェル様も素晴らしかったわ。」 目的が達成出来て、私はニンマリと微笑みを浮かべた。
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