王太子の悩み

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王太子の悩み

大きな執務机が置かれた部屋で、ウォルナットの落ち着いた色合いの椅子に腰掛けているのは輝く程の美丈夫だ。肘を付き片手を額に当てがい物憂げな表情を浮かべている。 「妹が王城に通っているのに浮かない顔ですね王太子様。」 表向きは王太子付きの補佐として仕事をしているのは、公爵家次男アストリットの兄マーセルだ。 「ここだけの話だが、遠いと思わないか?アストリットとの距離が。」 「え?断然前より近いと思いますよ。会おうと思えば毎日の様に会えますし。」 「それはそうなのだが、何とも心に距離があるんだ。」 「あ、あれですか?午後のお茶の時間にアストリットがずっと扇で顔を隠していた事ですか?」 「確かにそれもある。」 「それじゃあれですか?昨日、帰り際に手を握ったら妹が硬直して動かなくなった事ですか?」 「それもそうだが、あの時のアストリットのポカンと開いた口は可愛らしかったから、それはいい。」 「それはいいんだ。それじゃ、何が駄目なんですか?今一わからなくて。」 「アストリットと目が合わないんだ。」 思わず「わかる!」と言いかけてマーセルは口をつぐむ。 「近くに居ても私の目を見てくれないんだ。私はこんなにアストリットの瞳に映りたいと思っているのに。」 あー始まったよ、とボヤきながらもマーセルは聞き役に徹する。 「男装のアスターの姿だけで会っていたから、王城で令嬢として着飾ったアストリットを見た時は、天使が絵から抜け出てきたのかと思ったんだ。近づいて言葉を交わすまで、私はただ天使に一目惚れの片想いをしたのだと、己の記憶を疑ったくらいだ。改めて挨拶を交わし、オスカーではなくアストリットとして向き合えたのに、この遠さは何なのだろうか?」 早口で一気に己が気持ちを吐き出した後、考え込んでしまった王太子に、こんな腹黒でも普通に恋して悩むとかあるんだなと驚きの気持ちを隠せないマーセルだった。
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