天使と悪魔の教室

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 光寿が図書館にいるから、生徒会の仕事が終わったら来いと言われていた。  放課後の図書館は静まり返っていた。数人しかいなかった。図書委員の人たちだけ。 「光寿なら文学全集のコーナーの机にいるぞ」  教えてくれた図書委員の詰野に軽く手を挙げて、僕は机の間を歩いて行った。 「光寿、これから僕は塾だから。早く帰ろう」 「うん、これ見て」  机にはルーズリーフが2枚。クラスの男子と女子の名前が書いてある。 「光寿、この名前に後ろに書いてある天と悪って何」  パッと時計を見て、帰ってから話すと言って小走りになった光寿を追いかける。  僕が塾を終えて帰って来て2人で部屋に入る。双子の僕らは、部屋は小1から中2の現在に至るまでずっと一緒。 「宿題題やってから、さっきの天と悪を教える」  2人で協力しながらだと早い。僕は塾の課題もあったけれど早く終わらせた。天と悪の意味を早く知りたいから、ほぼ無言でやりきった。 「2人とも、お風呂入ってくれる?希紗が明日の朝早いの」  希紗は小6の妹。とても活発で明るくて陸上一筋。僕らは希紗を応援している。こんな僕らには、超仲良しのいとこがいた。晶太には毎年、お盆に限らず手を合わせている。 「これは晶太のいた1年B組の奴ら。この天と悪は天使と悪魔の事」  晶太を酷い目にあわせた28人。生前に晶太が僕ら宛に書き残してくれていたノートを基に光寿が、誰が天使で誰が悪魔かを調べた。 「晶太の敵討ちの第一段階。晶太を酷い目にあわせたリーダー格を探る」  頷いて光寿とルーズリーフを見つめていて気になる名前を見つけた。何でこの名前が。 「どうした」  数秒間ひとつの名前を見続けていたからか、光寿が不思議そうな表情で訊いてきた。 「この端ノ沢(そう)って塾にいる」 「えっマジ」  光寿の大声に母さんと希紗が部屋のドアを開けた。母さんが少々、お怒りモードで催促してきた。 「ねぇ、にいにたち2人で何してるの」 「小学生には関係・・・・・・あるわ。希紗、大会から帰って来たら協力頼むわ」  僕たちは早々に入浴を済ませて部屋にこもり続けた。 「翔寿が塾に行っていて良かった。マジでいるんだ」 「いるよ。珍しい苗字だし僕のいるコースのトップ3に入るくらいの頭してるよ」 「晶太のノートを見て悪にした。塾ではどんな感じ」  優等生で見た目は天使。可愛い顔して愛されキャラ。でも、晶太に酷い事をした悪魔なのだ。見た目天使で心は悪魔の端ノ沢。どうしたら晶太の敵討ちが出来るのか。 「とりあえず数日は様子見で。翔寿が話すのが1番良いな。悪魔たちに謝罪させたい」  希紗が動いてくれた。どうやら六畳大会常連の子たちに晶太の話をしたらしい。その中に晶太と同じクラスに姉のいる子がいて。 「にいにたち、机の上に出しっぱなしだったから。あれっこの名前って思って」  その子は天の字だから天使。晶太の交際相手だった。  僕も行動を起こした。塾に早く行って端ノ沢に声をかける。手紙を渡した。天使の振りした悪魔は数日後、塾の終了後に僕を呼び止めた。手紙に書いた悪魔たちを集めてくれると。  クラス28人のうちほとんどが悪魔じゃないのか?晶太を助けられなかった担任を含め。  晶太のノートからから考えた悪魔は10人。晶太の交際相手の子は、迷惑をかけたくなくて別れを切り出しても側にいてくれたらしい。その子以外は、手を差しのべてくれた数名以外は、悪魔よりの天使じゃないのかと思う。    晶太の交際相手の鈴美さんが声をかけ、通っていた1年B組に集合するように声をかけてくれた。 「何でお集まりいただいたのかを説明します」  僕と光寿は晶太の事を話した。 「貴方たちはクラスメイトの晶太を苦しめました。大切な人達、手を差しのべてくれた人達が天使だとしたら、貴方たちは悪魔だと思います」  言っているうちに涙が出て来た。晶太はもういない。代わりに僕らいとこと鈴美さんで10人に謝罪させる。 「何言ってるんですか。僕は天使側ですよ」  端ノ沢が立ち上がり帰ろうとする。そこへ鈴美さんが怒りをぶつける。 「晶太君を標的にしたのは早君でしょ。私、知ってるんだから」  天使の振りした悪魔に、悪魔にならなければならなかったクラスメイトの、氷のような視線が向けられる。  天使の振りした悪魔が崩れ、自分たちが天使になれる瞬間を待ちながら。          (了)
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