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与えられた任務
そこはとても広い場所で眩しく光る空間だ。それにも関わらず、あの時と違ってそれほど眩しくない。
いつの間にか目が慣れてしまっているのか、それとも天使になったからなのか、どちらなのかわからない。
そのおかげか、俺は辺りを見渡せるほどの視力の良さを感じている。
「お連れしました。あとはお願いします」
ここまで案内してきた天使はそれだけ言葉を口にすると、来た道を戻っていく。咄嗟に俺は呼び止めようとしたが、早さについていけず呼び止められなかった。
向きを変えて、案内してきた天使が声を掛けていた別の天使を見やる。
さっきまでの天使とは大いに違うのが分かる。
さっきは人間で言う女性のようだった。華奢な体格をしていた。
目の前に背を向けて立っている天使は背が高い。俺よりでかいんじゃないかと思うほどに。恐らく、人間で言う男性だろうな。
それによく見れば、羽の数が違う。
右には三羽、左に二羽。もしかして階級が違うとかだろう。
「生きたかっただろう。悪いことをしたな。然し、君にはやってもらわなければいけないことがあるのだ。許してくれ」
天使をじっと見ていると、突然低い声が聞こえた。天使は申し訳なさそうにしている。
言う通り、俺は生きたかった。つまらない人生だったのは確かだ。それでも、生か死どちらか選ぶなら生を選ぶ。
まだ希望を完全に捨ててないからな。
「そうか。それは本当に悪かった」
天使はもう一度謝った。いや、謝られてもな。人生は一度きりと言うし……。
「後悔する時間もないんだ。早急にやってもらわなければいけないことがある。君には彼女を監視してほしい」
気がつけば、天使は俺のほうを向いている。
待て、監視? 然も、彼女とか言った気がするが……
「そうだ。彼女の監視を、」
「は? 何言ってるんだよ。それはつまり、ストーカーじゃねぇか!」
俺はどうやら女の監視をしなきゃいけないらしい。
普通なら犯罪だぞ。
「数が足りないんだ。それに君にしかできない任務だ」
監視が俺にしかできないことか。誰でもできると思うけどな。
「君にしかできないんだ」
天使は答えるように口にした。それよりも思っていたことがある。
この天使もそうだが、ここに案内してきた天使も俺の心を読んでいる。全てそれで会話をしている。俺にも声を出させてほしい。
「それは悪い。天使というのはそういうものなのだ」
ほら、まただ。仕方ない。思ったところで読まれてしまう。諦めよう。
俺は漸く天使から指示された任務をするため、映像に目を向ける。天使になったからには任務を全うしよう。
そう思って見た映像に驚く。
映っていたのは見覚えのある女性。俺の幼馴染みの満遥だ。
満遥はぐっすり眠っている。それもそうだ。人間世界では夜なんだろう。
俺はそんな時に天使に会ったんだ。
監視してくれって言われても眠っているし、今は必要もないだろう。気がつけば、さっきの天使は居なくなっている。
俺もこの場から離れよう。でも、どこへ行けばいいんだろうか。ここに来たのは初めてだ。然も、一人で来たんじゃない。案内してもらってここに来た。
そんなことを考えていると、話し声が聞こえてきた。俺は咄嗟に辺りを見渡し、どこか隠れる場所を探す。
天使の世界はなにもないだろうと思っていたが、意外と俺たちと変わりはない部屋だ。
俺は物陰に隠れてやり過ごす。だんだん話し声が近づいてくる。
「知ってるか? 人間界から来た天使がいるらしい。人間界からだぞ」
「そうなのか? 元人間に天使の任務なんかできないだろ。上級者たちは何を考えてるんだか分からない」
そんな会話を耳にした。てっきりこの部屋に入ってくるかと思っていた。
この部屋を通り過ぎていったようだ。
どうやら、天使には階級があるらしい。まぁ、そうだろうとは思っていた。
俺に任務を与えた天使は羽の数も違っていたしな。
取り敢えず、今はこの部屋を出たい。監視って言っても、今はやることがない。任務は後回しだ。
そっと部屋を出ることにし、見つからないよう逃げ出すことに成功した。
これからどうなるか俺はまだ知らない。未知なる世界へ。
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