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これからもずっと
俺は部屋を出て、ある場所にいた。
そこは何もない空間。天使もいない。まるで、空っぽのようだ。
俺は休憩するためにはちょうどいいと足を踏み入れる。足を踏み入れた瞬間、びりびりと電撃が走るような感覚に襲われた。
それも一瞬だけだ。何事もなかったように静まり返る。
この空間はなんだ? 誰もいない。然し、なぜか心が洗われるようだ。
気がつけば、俺は目を瞑ってしまった。
「おい、起きろ。しっかりしろ!」
声とともに体が揺さぶられるのを感じて目が覚めた。目を開けて体を起こすと、目の前に知らない人、いや天使が視界に映る。
天使は厳つい顔をして俺を見ている。俺、寝ていたのか? そもそも天使は寝ることがあるのか? あったとしたら、人間と同じじゃないか。
「おい、大丈夫か?」
ふと我に返る。
厳つい顔の天使が心配そうにしている。そんな顔をされてもな。ただ寝てしまっただけなんだが……
「は? 寝てしまった? そんなことは天使にできねぇよ」
それを聞いて俺は心の中でやっちまったと思った。元人間だと知れたら、俺はどうなるんだ?
天使は俺を睨んでる。やっぱり疑われるのは当たり前か。
あ、そうか。心を読まれてしまっていたんだ。
『緊急事態。緊急事態。今すぐ中級以上の者は上位の間に集まれ。繰り返す。中級以上の者は上位の間に集まれ!』
突然、聞こえてきた知らせ。何があったんだ?
そう思っていると、腕を掴まれた。引っ張られて転げそうになる。
「おい、一緒に来い」
強引すぎるだろ! それに俺がここに来たのは初めてなんだ。
そうか、思ったところで心を読まれてちゃ意味がない。
すでに元人間がここに来ていることが知れ渡っているかもしれない。
そんなこんなで連れてこられたのは狭苦しい場所に十数はいるだろうか、天使たちが集まっていた。
俺はすぐに視線の的になっている。俺が、何か、したっていうのか?
よく見れば、ここに案内してきた天使もいるし、俺に天使の任務を与えた天使もいる。
「こいつっすよね。元人間の天使っていうのは。まさか、こいつが原因で、」
「ウィルのところにいたのか。何も説明しなかったな」
何が起こってるのか、しかも俺のせいなのが理解できない。俺が何かした、
「任務を放棄したんだ!」
「悪い。説明をしなかったこちらのせいだ。本当に申し訳ない」
いや、勝手に話を進めないでくれ。一ミリも理解できないじゃないか!
そう思ってると、初めて会う天使と目が合ってしまう。俺に任務を命じた天使より一つ羽が多い。羽の数が六。左右に三羽ずつ。
上級者なのか?
それに背は高いが人間でいう女性っぽい容姿だ。
「おい、説明よりもまずは自己紹介が先じゃないか? ロイ、名乗ってないだろう。しっかりしろ。天野、私はミラだ」
随分と威厳ある天使だな。やっぱり、上級だけあるな。
「勘違いするな。こいつも上級だ。訳あって羽の一部がないが、私よりできる」
代わりに紹介したミラさんは得意げな表情を見せる。それよりもそんなに悠長なことをしている場合ではないと思いつつ他の天使たちの表情をうかがう。
それぞれ真剣な眼差しで俺たちのほうを見ている。上級者たちもやっと状況に気付いたようだ。
漸く、上級者は話し出す。終始、俺を見ながら話していたが、俺が原因らしい。
話によると、俺が監視するはずだった満遥は亡くなったらしい。俺とは違って天国に行くと言っていた。
ひとまず安心とはいかず、監視を怠った俺のせいだ。俺が殺したようなものじゃないか。
監視をしていても、ただ眠っているだけでどうしようもできなかっただろう。
「違うな。放置しなければ、何か異変には気付けてはいたはずだ」
言葉の通り、異変には気付けていたかもしれない。何も言い返すことができない。
「もういいだろう。ついていなかった俺が悪かった」
ロイさんは俺を庇うように謝っていた。
それからはロイさんが付き添いで監視任務をすることに。
そんな繰り返しをしたある日。
「人間に戻りたいと思わないか?」
突然、ロイさんが問い掛けてきた。ここ、天界に来た最初は戻りたいと思ったこともあった。
けど、今は慣れてきたのかもしれない。
「そうか」
俺はじっとロイさんのほうを見やる。ロイさんは少し寂しそうにしているような気がした。
さて、今日も任務を頑張りますか。
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