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◇
「頼めばキスしてくれる。ただし、決して彼に恋してはいけない」
そんな馬鹿げたウワサを初めて聞いたのはいつだっけか。もうそんなこと覚えてもいないし、本当かどうかなんてのは全然わかりやしないんだけど。
それでも、今も尚そのウワサは根強く私たちの間に広まっているし、消える気配なんてのはこれっぽっちもない。
私はそれをハンブンほんと、ハンブンうそくらいの冗談として、今まで笑い流してきたけれど。
……火のないところに煙はたたぬ。
それって意外と、ほんとの話。だって、この前スキャンダルされていたあのアイドルは実際に不倫していたし、可愛くない子が可愛いとウワサされることはまずないし。
それにほら。今現在、私は "彼" と "トモダチ" がキスしているところを、しっかりバッチリ見てしまっている。
「先生、もう、だめですか…?」
「……俺がしてやれるのは、ここまでだよ」
何をあろうか、甘い瞳でキスの続きをねだったのは、私に向かってあのウワサを流した張本人だったし、自分のトモダチのキスシーンを見てしまった罪悪感が否めないし、それに何よりも。
……あんなにカッコよくて知的なイメージの "翔くん先生" が、本当に生徒にキスをしている。
そんなことにちょっとだけ……いや、大分ダメージをくらってしまった。だって先生は、私の憧れの人だったから。
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