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VII
⁑⁑⁑⁑⁑
三人は近くのカフェに場所を移した。
彼女は飛鳥と同じ大学で東雲真音というらしい。
校内の話題は飛鳥の奇行で持ちきりらしく、咄嗟に彼が思いついた言い訳は、世話焼きの従姉妹が押しかけて来たというものだった。
「サッちゃんはいつも突然、恋人はできたかって様子見に来るんだよ」
「誰がサッちゃんよ……。あと、いつの間にか、あなた敬語が抜けたわね」
「従兄弟同士で使うのもおかしいでしょ?」
「生意気、言うようになったじゃない」
「二人は仲良いんだね〜」
「どこが」
「従兄弟だからね」
「うん、息ぴったりだ」
「もういいわ、それより! あなた、飛鳥とデートしない!? 今ならケーキも買ってあげるわ」
「僕はセール品か何かかな……」
真音へとメニューを差し出すサハリエルには流石の飛鳥も複雑な表情となる。
「それとも好きな人でも居るの?」
「それは……」
「お客〜。長居するなら注文してくれ」
歯切れが悪くなった真音のグラスに水が注がれ、そこには茶色いエプロンを付けた男性が立っていた。
短い黒髪に日焼けした肌、灰色の鋭い瞳と引結ばれた唇は不機嫌そうだ。
真音はグラスから水をグイッとやると、勢いよくそれをテーブルに叩きつける。
「もう一杯!!」
「居酒屋じゃねぇよ」
男は手に持っていたメニューで軽く真音の頭を叩く。
「いてっ! これがDV……」
「変な言いがかりつけんな!」
そこで、飛鳥達が固まっているのに気がついた彼が視線を移す。
「俺は千葉隼人。真音とは腐れ縁みたいなもんだ」
「僕は宇佐美飛鳥。真音さんとは同じ大学なんだ」
「私はサハ……」
「彼女は佐原理恵! 従姉妹だ!!」
「おう……まぁいいや、夜は冷えるから早めに帰れよ」
隼人は飛鳥達のグラスにも水を注いでその場を後にする。
「ま、待って! 隼人!!」
「何?」
「日曜日、ライブに来ない? 夕方からはオフだし、その後は二人で水族館でも」
「今週は予定がある……」
「そっか……」
隼人が厨房に戻ると、真音は緩くなったコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜ出す。
「水族館、僕と一緒に行かない?」
「えっ?」
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