XI

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XI

⁑⁑⁑⁑⁑  エレベーターを待つ余裕は無く、隼人はエスカレーターを周りの目も気にせず駆け上がる。  脳裏に甦るのは真音との数々の思い出。  大好きな歌声、沢山の元気をくれた笑顔、自分のせいでさせてしまった悲しい顔――。    最後の一段を気合いで登り切った時には隼人の体力は限界に達していた。  その場に座り込みそうになるのを必死に堪える。  窓の曇った屋上広場へと続く扉が目前にあり、その脇に飛鳥が立っていた。  灰色のロングコートのポケットに手を突っ込み窓に寄りかかる姿は、キザなのに自然体で様になっている。   「覚悟は決まった?」 「あぁ、でもあんたは……良いのかよ?」 「ぷっ――あははっ!!」 「な、何がおかしい!?」 「ふふ、それをここで聞くのは、無粋じゃないかな」  エレベーターに歩き出した彼は隼人の隣で足を止めた。   「彼女のような人は、どんどんと前に進んで行くよ。僕らは、かっこ悪くても必死に置いていかれないように足掻くしかないんだ」  そう言い残すと、彼はエレベーターへと乗り込んだ。 「かっこつけ過ぎだ。あんた達は……」  扉を開け放つと――そこには満天の星空、その全てに祝福されたように立つ真音が居た。  星々の光を一身に浴びて真音の口は、歌を紡いで()く。    〝夜の鐘を鳴らして、君への想い紡ごう   私には何も無いけれど、君のために送ります   この声で歌と想いを   永遠(とわ)に広がるこの星々を〟 ⁑⁑⁑⁑⁑  飛鳥はサハリエルの力により、彼女とともに空中から二人を見下ろしていた。 「あなたも損な役回りね」 「彼女の笑顔と歌をこんな特等席で見れるんだ。それだけで充分だよ」 「さぶっ……」 「あはは……でもね、サハリエル。僕は今回のことで気がついたんだ。僕が好きなのは、誰かに恋をして眩しく輝いている人なんだって」 「あんた、寝取り願望でもあるの?」 「そんなのはないよ。でも、今この人が誰かのことを好きになったら、どうなるんだろって気になる人は居るかな。そして、その相手が自分であれば良いなとは思ってるよ」 「ふーん。まぁ、あなたの願いが叶わないと私も戻れないしね。その時は手伝ってあげるわ」  彼女は指を一度、パチンと鳴らす。 「これはサービスよ」  紫色の光の粒子が真音を包み込んでいき、その背にサハリエルのものと同じ黒翼が出現した。 「普通は白い翼じゃない?」 「仕方ないでしょ、堕天使なんだから……」  翼から更に細かな紫色の粒子が放たれ、それは風に乗り隼人の身体を貫くように駆け抜けた。  彼は真音から目を一瞬たりとも離すことができないでいた。  〝さぁ、ともに奏い(うた)ましょう   私達の想いを   あの日、出せなかった勇気を   あの日、伝えられなかった言葉を   今日、この歌に乗せて   気がつけば、いつだって君を想っていた   遠くに居ても同じ星を見つめている君を   失いたくない、この想い   幻想(ゆめ)で終わらせたくないから   (ことば)にする   君を愛しています〟  
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