III

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⁑⁑⁑⁑⁑    威容を誇る大聖堂を支えるためには頑丈な石造りの基壇が使われており、それはさながら城塞のようだ。  強風が吹いたかと思うと、重厚な音と共に扉が開く。  時計は既に零時を過ぎていたが、異様な高揚感が飛鳥を突き動かし、教会へと足を踏み入れさせる。  そこには暗く、静謐な空間が広がっていた。  足を一歩踏み入れれば、その音を真紅の絨毯が吸収する。  絨毯は祭壇へと続き、左右には年季を感じるマホガニーの長椅子とステンドグラスの窓が並ぶ。  歩を進めると祭壇の背に四体の聖人の像が並ぶのが見えた。  その中央には神聖な雰囲気に不釣り合いな石像が、聖人達に取り囲まれるように()る。  床から伸びた鎖に体を縛られた漆黒の天使像だ。  (むご)たらしい姿でありながら、その表情は気高ささえも感じさせた。  同情することさえも彼女の前では、おこがましく思える。  飛鳥は鞄から、紺色の小ぶりな箱を取り出した。  その中には雪の結晶をモチーフにした首飾り(ペンダント)が入っている。  ヒカリへと渡そうと思っていたものだ。 「他の女性へのプレゼントなんて、ちょっと失礼かな……。でも天使さん、きっとこれはあなたに似合う」  飛鳥は優しい手つきで、その首飾り(ペンダント)を天使の首にかけた。  彼は十字を一度切り、その場を後にしようと祭壇に背を向けた。 「他の女への贈り物というのは気にくわないけど、貢物としてもらっておくわ」  鎖が弾け飛ぶ音と共に尊大な声が響く。  一瞬の後に硬直を解いた飛鳥が振り返れば、そこには腰下まで伸ばされた艶やかな黒髪と金色の瞳、そして漆黒の翼を持つ女性が立っていた。 「私の名は堕天使サハリエル――あなたの主よ」
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