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VIII
⁑⁑⁑⁑⁑
隼人のシフトが終わると同時に雪は降り出した。
「寒っ……」
「お疲れ」
声に隼人が視線を移せば、電柱に紺色のトレンチコートを羽織った男が寄りかかっていた。
「宇佐美だっけ……?」
「飛鳥で良いよ」
飛鳥は右手から軽やかに何かを放り投げる。
「熱っ!!」
隼人がキャッチしたそれは缶コーヒーだった。
「あそこのコンビニいつも熱々なんだよね」
「マジで熱いな……。ってか何の用?」
「少し歩かない?」
⁑⁑⁑⁑⁑
二人は駅までの道を共に歩いていた。
「真音さんのこと好きなの?」
ド直球な質問に隼人はコーヒーを吹き出した。
「い、いきなり何聞いてんだ!?」
「正解か」
「腐れ縁ってだけだ……」
「じゃあ何で彼女のこと避けてるの?」
飛鳥の指摘に彼は、しばらく続く言葉を発せなかった。
「今のあいつの隣に俺は相応しくねぇ……」
彼がスマホを出して真音のバンド名を検索すれば、数万再生を超える動画がいくつも出てきた。
「才能も本気さも俺は、あいつに到底及ばない。俺さ、小中学校までは本気でサッカーやってたんだよ……。中学に入ってからは、真音が歌を始めて、お互いに試合とライブ見に行ってさ。夢は叶うもんって信じてた。
一応、中学まではエースだったんだぜ? でも高校に入ったら、俺より強いのはいくらでも居た。結果を出し続ける真音に会うのも怖くなったんだ」
雪は更に強くなり、二人は傘を差した。
「ここだと思った道が違ったなんてのは、いくらでもあるよ。でも自分の気持ちも偽って相手を悲しませながら、いつまでも半端な関係を続けてるのはどうかな」
「ハッキリ言いやがって……」
「遠慮するつもりはないからね。日曜、真音さんと水族館に行くんだ。正直に言うよ、僕は彼女の歌と輝きに惹かれてる」
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